この国を繫ぐ連帯が可視化された

 6日にライブを終え、デモに参加するためそのまま汝矣島へ向かいました。ライブに来ていたお客さんたちも当然行く、という感じだったから「また汝矣島で」と別れて。その日の参加者は100万人。酷い混雑で電車はもう「国会議事堂駅」には停車しないようになっていて、みんな汝矣島に向かう橋を徒歩か車で渡るしかなかった。

 韓国人にとってデモに行くのは、本当に当たり前のことなんです。私が初めて大きなデモに参加したのは大学生の時ですが、当時付き合っていた物静かな彼氏がデモに行くと人が変わって、警察と喧嘩するのが面白かった(笑)。なぜ韓国人はデモに行くのかと考えた時、ふとパンソリという韓国の伝統音楽が思い浮かびました。小学校で習うような国民的民謡で、権力を風刺する内容が多い。

 たとえば私が好きな「水宮歌」は、竜宮城の王に「ウサギの肝を取ってくるように」命じられたカメがあの手この手でウサギを騙して、竜宮城に連れていく……という話。ところがウサギは竜王の前でカメに騙されたことに気づき、「昨日肝を洗濯して、いま外に干しているから取って戻ってきます」と嘘をついて逃げ出すんです。

 弱者が自分で自分の身を守っている点は残念なんですが、韓国には「恐ろしい権力にどう知恵で対抗するか」を謳った民謡が多くて、そうした音楽に触れる中でも、抵抗の精神が育まれていくのかもしれませんね。憲法に「全ての権力は国民から生ずる」とあるように、「私がこの国の権力者であり、私たち市民が忙しい合間を縫って選挙に行き、政治家を選んであげて、給料も払ってあげているのだから、私たちのために政治しろ」と私たちは本気で思っている。

 一方で日本は「私なんて生まれてきただけで迷惑」と思っている人が多いなと感じます。

 デモではみんな同じ意見で集まっているので、お互いに優しいんです。今回も梨泰院の事故を受けて押し合わないように声を掛け合っていましたし、子どもが寒さをしのぐための専用バスがあったり、お金に余裕のある人たちが食堂で代金を先払いしてくれて、若いデモ参加者が無料でごはんを食べられたり、無料の生理ナプキンも用意されていました。MCも女性が多くて、「誰も差別しないデモ文化をつくろう」と呼び掛けていましたね。

2025.03.08(土)
文=CREA編集部
写真=岡本佳樹
コーディネート=ソン・シネ(TANO INTERNATIONAL)

CREA 2025年春号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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韓国のすべてが知りたくて。

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