ある時、ひょんなことからタイムトラベルの手段を得てしまい過去に戻ることができるようになったカンナ。そこで自分と出会う直前の駈と再会する(この若き日の駈が松村北斗!)。

 もちろん好き合って結婚した二人。当初の気持ちを思い出し、もう一度恋に落ちたカンナは、過去を変えることで15年後に駈に起こる悲劇を回避させようと奮闘。何度も過去に戻って未来を変えようと試みる、タイムトラベルラブストーリーになっている。

 カンナ自体は、40代の姿のまま過去に戻るが、そこにいる若き駈はまだ20代。駈がそこでカンナを好きになるのは無理があるのでは? と字面だけみると思うかも知れない。しかし、観るとそうはならない。

 うまいなと思ったのは、駈がカンナに向ける目が、少女漫画の恋に落ちる瞬間さながらだったこと。松村北斗、本当に自然と恋を表現できる俳優だと思う。恋をすることに嫌味がまったくない。本来の過去の世界では、20代のカンナと駈が出会って結婚する流れなのだが、駈はそもそも年齢で相手を判断したわけではなく、純粋にカンナという人間に魅力を感じていたんだなと、劇中の駈の表情から十分に伝わってくる。

 それに、現実では47歳の松たか子と、29歳の松村北斗の並びで恋愛描写を行うわけだが、このカップリングにも違和感を覚えなかった。それはすでに『大豆田とわ子と三人の元夫』で、松たか子と岡田将生(35)が元夫婦役だったことを普通に受け入れられていたという文脈もあるのかもしれない。

 ひっかかりなく鑑賞できたのは、松たか子の人間としての魅力もあるだろう。松たか子と松村北斗。このキャスティングで恋愛の説得力は十二分にあると感じた。

ファンタジーの中にあるリアリズム

 今作の肝となるのは、タイムトラベル。坂元ドラマといえば、ラブストーリーはもちろん、社会性のある作品が多く、リアリズムを意識した作品が多かった。理想化や空想を排することで、現実にありえる事象をリアルに描いてきている(広瀬すず主演のドラマ『anone』のように、ファンタジー要素の作品もあるが)。

 今回、タイムトラベル作品にあえて挑戦したのは、本作が映画の脚本だったからだろう。毎週放送されるテレビドラマでは現実に沿った事象の中での共感が求められがちだが、娯楽を求めて映画館にやってきたときに、2時間弱没頭してSFを思い切り浴びる非日常体験はとても楽しい。

 名作『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ではデロリアン製「DMC-12」を改造した自動車型タイムマシンで過去に戻るが、本作ではカンナが車を運転中に時空の歪みに突入する。車で過去へ。もしかしたら名作へのリスペクトがあったのかもしれない。

 ただ、本作で物語が動き出すそもそものきっかけは日常の中にある悲劇だった。日常を一変させる厄災や事件は、案外すぐ隣にある。駈は線路に落ちたベビーカーの赤ちゃんを助けるために、自ら犠牲となり命を落とした。

 これには、2001年の、新大久保駅乗客転落事故を思い出さずにはいられなかった。泥酔した男性が線路に転落し、韓国人の留学生と日本人カメラマンが助けようと線路に入り、結果として3人とも電車にはねられてしまった事件だ。

 人命救助のために自らの命を顧みず、勇気ある行動を起こしたこの件は、日韓両国で大きく報道されるとともに、事故の犠牲者を追悼・顕彰するプレートが、新大久保駅のホームと改札の間の階段に設置されるなど、記憶の継承もされている。

2025.02.19(水)
文=綿貫大介