数々のドラマを始め、映画では『花束みたいな恋をした』『怪物』などで知られる脚本家・坂元裕二と、『ラストマイル』『わたしの幸せな結婚』の監督・塚原あゆ子が初タッグを組み、オリジナルストーリーで描いた恋愛映画『ファーストキス 1ST KISS』。

 公開から1週間、すでに大ヒットとなっている。本作をまだ観ていない人にも、すでに観て余韻に浸っている人にも伝わる、鑑賞ポイントを深掘りする。

坂元作品常連の松たか子×初出演の松村北斗の相性が抜群

 坂元裕二作品のミューズといえば、満島ひかりがまず筆頭にあがる。そんな満島ひかりとドラマ『カルテット』で共演した松たか子も、今では坂元作品に欠かせない俳優といえるだろう。特に『大豆田とわ子と三人の元夫』での大豆田とわ子役は、今では松たか子のパブリックイメージに近いのではないだろうか。

 サバサバしていて言いたいことは言う。年齢に伴うキャリアはあるけど、柔軟な考えを持っていて権力にしがみついていない。人間らしい面倒臭さもちゃんとあって、なんといってもチャーミング。大豆田とわ子役をはじめ、そんなイメージの役をいくつも演じてきた。

 今作における硯カンナも、そんなキャラクター。もはや通常運転という感じで、盤石の安定感がある。だからこそ、すでに坂元裕二作品を観てきた視聴者であれば、容易に没入しやすい作品であるともいえる。あのいつもの素敵な松たか子が観られる! そう思って劇場に足を運んでほしい。

 そして意外な組み合わせとなったのが、松村北斗。ラブコメドラマ『西園寺さんは家事をしない』での真面目でちょっと変わり者な役から、映画『夜明けのすべて』での、普段は淡々とした日常を送りながらも実はパニック障害を抱えているという難しい役までを、そつなくこなしてきた。

 色が強い「個性的な芝居」をするわけではないが、ふわっと薫る五月の風のように、心地よく香り立つ芝居をするところが松村北斗の魅力の一つだと思う。作家が作る世界に自然になじみながら、その中でしっかりと存在感を放つ演技が素敵な俳優であることもあり、坂元作品の中にいても違和感がまったくない。むしろ観ていて、坂元作品に何回か出ているよね? と思ってしまったほどだった。

 特に、坂元作品での松たか子が演じる役は、相手役となる演者と、圧倒的なテンポ感での会話が繰り広げることが多いが、今回、松村北斗も自然とこのやり取りができていた。これは相手の芝居を受けて呼応する力に長けている証拠だ。『大豆田とわ子と三人の元夫』のような軽妙な会話劇が好きな方には、そこも期待していい作品になっていると伝えたい。

年齢差を感じさせない、特異なラブストーリー

 松たか子と松村北斗でラブストーリー。年齢差を考えてびっくりした人もいるかもしれない。でも大丈夫。観ていて違和感はまったくない仕上がりになっているから。ここからはストーリーを追いつつ話を進めよう。

 カンナ(松たか子)と夫の駈(松村北斗)は、結婚して15年になる夫婦。それでもいつしか気持ちがすれ違い始め、ずっと倦怠期が続いてしまっていた。そしていよいよ離婚届を出すというタイミングで、駈は事故死してしまう。

2025.02.19(水)
文=綿貫大介