この記事の連載
あしたの少女/バカ塗りの娘
私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?/燃えあがる女性...
人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした...
香港の流れ者たち/星くずの片隅で/枯れ葉
夜明けのすべて/アダマン号に乗って/コット、はじまりの夏
落下の解剖学/ビフォア・ミッドナイト/コール・ジェーン -女...
美と殺戮のすべて/アイアンクロー
システム・クラッシャー/ありふれた教室
違国日記/20センチュリー・ウーマン/オールド・フォックス ...
メイ・ディセンバー ゆれる真実/あるスキャンダルの覚え書き/...
コンセント/同意/HOW TO HAVE SEX
ナミビアの砂漠
Cloud クラウド
ヴァラエティ
クラブゼロ
エマニュエル
ノー・アザー・ランド 故郷は他にない
ケナは韓国が嫌いで
山田くんとLv999の恋をする
来し方 行く末
ラブ・イン・ザ・ビッグシティ
カーテンコールの灯
敵対する国の青年たちは何を話す?

映画には、村の破壊と、村人たちが迫害され追放される様がまざまざと映される。そしてその合間に、バーセルとユヴァルという同い年の青年たちが、車内や家で話をする様がたびたび映る。緊迫感を持った記録映像に息をのみながら、何度も挿入される会話場面を見るうち、そこから浮かび上がる2人の関係性にハッとさせられた。
そこで交わされる会話は、当然、村の今後のことであり、この事態をどう世界に発信していくかという、ジャーナリストとしての仕事について。それがやがて、自分たちの将来やこれまでの人生をめぐる話へと発展していく。けれど、会話が親密さを増すほど、2人の間にある明確な違いがいやでも見えてくる。激しい抵抗運動が一段落すると、ユヴァルは自家用車に乗って安全な家に帰ることができる。しかしバーセルが彼の家を訪ねることはできない。パレスチナ人には、生活をする上で厳しい制限が課せられ、自由に移動することすら許されていないからだ。

同じように抵抗運動を行なっていても、バーセルには、家族を含めて、つねに警察に捕らえられる危険がある。大学を出てもまともな職につくこともできない。興奮気味に未来への希望を話すユヴァルの前で、自分には将来の展望などないと暗い声で語るバーセルの表情が胸を締め付ける。
私にとって、とりわけユヴァル・アブラハーム氏の存在は、複雑な共感を呼び起こした。共に闘う仲間より、自分が明らかに有利な立場にあると自覚させられること。同胞たちが不正義を行う様を目の当たりにすることに、彼はどんな思いを抱えているのだろう。それは、報道に心を痛めていながら、日本で平然と日常生活を送る自分自身にも、決して遠い話ではないように思えた。
2025.01.31(金)
文=月永理絵