私の今までの活動をパズルのように組み合わせた映画

――終盤、流星というか、隕石がたくさん落ちてくる場面が出てきますが、あれは世界の終わりの暗示なのでしょうか? それとも、もっと前向きなイメージなんでしょうか?

 そこは観る方の判断にお任せします。すごくポジティブに、流れ星に願い事をしているのかな、と捉える人もいれば、やはり世界の終末を感じる人もいるので、どのように捉えていただいても良いなと思っています。

――もう一つ、鏡も重要なメタファーとして登場していますね。

 鏡は二つの面を反映させているので、二つの選択肢があるということですね。最初の方に出てくる鏡はあるアーティストの作品で、あの作品から着想を得て、後半にもそれを反映させるシーンを作りました。

――監督自身も現代美術の作家として活動されているんですか?

 メインの活動ではないのですが、時々作品を作ったりしていますし、現代美術のコミュニティに関わっています。この映画の準備期間に知り合ったアーティストのエキシビジョンを手伝いましたし、彼らの作品もこの映画に登場しています。またこの映画の共同脚本家は映画の舞台となった場所出身のムスリムですし、私の今までの活動をパズルのように組み合わせた映画になっていると思います。

――アーティストであるフォンの背中に、額縁のようなスクエアのタトゥーがありますが、とても印象的でした。あれは映画のために作ったものですか? それとも彼女自身のものですか?

 あれは映画のために作ったタトゥーです。フォンは自由を象徴するようなキャラクターで、彼女がタトゥーを入れるならどんなタトゥーにするだろうと考えました。フォンはある過去に縛られていて、みんなで話し合ううちに、スクエアが良いのではということになったんです。

 額縁のようであり、鏡のようであり、枠のようであり、そこからはみ出るような自由さもある。同時にシャティの視点も反映されていて、彼女も枠の中から出ようとしているわけです。スクエアのタトゥーはそれらの象徴と言えますね。

パティパン・ブンタリク

タイ・バンコクのタマサート大学で映画と写真を学び、卒業後、監督および脚本家として数多くの短編映画やドキュメンタリーに取り組む。プッティポン・アルンペン監督の『マンタレイ』(2018)や、ジャッカワーン・ニンタムロン監督の『時の解剖学』(2021・東京フィルメックスグランプリ)では助監督を務めた。タレンツ・トーキョー2018修了生。『今日の海が何色でも』は初長編監督にして、2023年の釜山国際映画祭ニューカレンツ部門にてNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)を受賞した。

映画『今日の海が何色でも』

東京・ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

タイ南部、イスラム文化が息づく海辺の街ソンクラー。美しかった砂浜は高潮によって侵食され、護岸用の人工岩に置き換えられている。保守的な家庭に育ったイスラム教徒の女性シャティは、環境活動家でありアーティストであるフォンの美術展のサポートをすることに。二人は惹かれあっていくが、シャティは伝統と欲望の間に葛藤し、さらに神学者との結婚話が持ち上がる。一方、フォンにも忘れ難い過去があった。

監督・脚本:パティパン・ブンダリク
出演:アイラダ・ピツワン、ラウィパ・スリサングアン
英題:SOLIDS BY THE SEASHORE
2023年 / タイ / 93分 / 日本語字幕:塩谷楽妥
配給:Foggy / 配給協力:アークエンタテインメント
公式サイト:https://movie.foggycinema.com/kyounoumi/

2025.01.28(火)
文=石津文子