漫画家の故やなせたかしさん(1919年~2013年)が故郷の「地域起こし」のためにと発案し、高知県南国市の後免(ごめん)町の住民が続けてきた「ハガキでごめんなさい」全国コンクール。言いそびれた「ごめんなさい」を「ごめんの町」にハガキで送ってもらう取り組みだ。第21回を迎えた2024年度は、12月26日に最終選考が行われる。

2024年12月20日、実行委員会から西村委員長、徳久副委員長、事務局の南国市観光協会から安岡事務局長、担当の竹中さんの4人が集まり、最終選考を前にした第一次選考を行った=南国市観光協会撮影
2024年12月20日、実行委員会から西村委員長、徳久副委員長、事務局の南国市観光協会から安岡事務局長、担当の竹中さんの4人が集まり、最終選考を前にした第一次選考を行った=南国市観光協会撮影

 ところが、応募数が激減してしまった。20年以上続いた催しのかつてない苦境。すぐに思い当たる原因はハガキの値上げだが、果たしてそれだけが理由なのか。関係者の話を聞いていくと、日本社会の深いところで進行する「変化」が見えてくる。

「後免」駅を出発する高知行きのJR土讃線列車(南国市)(撮影=葉上太郎)
「後免」駅を出発する高知行きのJR土讃線列車(南国市)(撮影=葉上太郎)

「来年はやなせ先生のテレビドラマが放映されるというのに……」

「このままだと100通ほどにしかならないかもしれません」

 コンクールの事務局が置かれている南国市観光協会。担当職員の竹中瑞紀さん(31)がため息をついた。

「来年はやなせ先生のテレビドラマが放映されるというのに……」。観光協会の安岡知子・事務局長(41)は言葉が出ない。

 やなせさんと妻の暢(のぶ)さんをモデルにしたNHK連続テレビ小説『あんぱん』が2025年春に始まる。そうした話題性に注目が集まり、応募が増えるかと思いきや、よもやの激減だった。

 2024年10月末、南国市観光協会へ取材に訪れた時の会話である。応募の締め切りは11月末と、1カ月後に迫っていた。

 過去5年間の応募数は第16回1927通、第17回2333通、第18回1849通、第19回1772通、第20回1688通。

 例年ならダンボール箱にどっさり届いている時期だ。しかし、あまりに少ないので小さな菓子箱に入れるしかなく、それでも隙間だらけで振ったらカサカサと音がしていた。

「なんとかして応募を増やしたい」と思っても宣伝費がなかった。無料で公募情報を載せてもらえるウェブサイトにお願いしたり、四国各県の記者クラブにプレスリリースを送ったり、地元の『高知新聞』に募集記事を書いてもらったりして、ラストスパートをかけた。

 それでも締め切りまであと2日という時点で確認すると、「300通ちょっとしか集まっていません」と竹中さんはうなだれていた。前年度の5分の1以下というレベルだ。

 最終的にどうなったのか。今年度はギリギリになって届いた枚数が驚くほど多く、計1094通が寄せられた。

第21回(2024年度)に寄せられたハガキ。なんとか1000通を超え、関係者は胸を撫で下ろした(提供写真)
第21回(2024年度)に寄せられたハガキ。なんとか1000通を超え、関係者は胸を撫で下ろした(提供写真)

最低記録の更新は避けられたが、それでも激減

 過去約20年間で最も少なかったのは、やなせさんが亡くなった翌年度の第14回(2014年度)で904通。最低記録の更新は避けられたが、それでも激減には違いない。コンクールの「今後」に大きな不安を残した。

 考えられる理由の一つは、郵便料金の値上げだ。2024年10月1日から、63円だったハガキが85円になった。

「コンクールには年金生活の高齢者からも多く寄せられます。物価高で生活が苦しくなっているのに値上げになったので、応募を控えた方が多かったのかもしれません」と、徳久衛(とくひさ・まもる)さん(64)は話す。

2025.01.01(水)
文=葉上 太郎