学校からのまとまった応募も年々減って

 2003年度にコンクールが始まった時、やなせさんがハガキで応募してもらおうと考えたのは、「手軽だったから」(徳久さん)だ。しかし、約20年という歳月の技術革新と、郵政の経営方針のため、ハガキは手間が掛かり、高くて遅い通信媒体と認識されるようになった。

 こうした状況を受け、郵便に触れる機会がなくなった子供達に、ハガキの出し方を教える手段としてコンクールを活用してきた学校もあった。「夏休みの宿題にしてくれた学校もあります」と竹中さんは語る。

「しかし、教員の中には私と同じように年賀状を出さず、ハガキの出し方も知らない世代が増えています。そうした教員が子供にハガキを出す体験をさせる必要性を感じるかどうか」と竹中さんは首を傾げる。

 安岡事務局長は「学校からのまとまった応募は年々減っています」と寂しげだ。以前は100通、200通とまとまって応募していた近隣小学校からも、取材に訪れた時点では「1通しか届いていない」という惨状だった。

 結果として、子供からの応募は大人より減り方が激しく、今年度は特にその傾向が顕著だった。昨年度の1090通から537通に半減した。

昨年、第20回(2023年度)の最終選考。集まった約30人でじっくり読み込む(南国市観光協会撮影)
昨年、第20回(2023年度)の最終選考。集まった約30人でじっくり読み込む(南国市観光協会撮影)

デジタル化が進んだ「ごめんなさい」の軽さ

 徳久さんはこれらハガキを取り巻く環境に加え、「手で書く機会が減ったのも影響しているのではないか」と見ている。「実は私も会社の机に筆記用具を一切置いていません。稟議書はパソコンに送られてくるし、印鑑の代わりにサインを貼り付けるので、書く必要がないのです」と話す。

 コンクールではそうした社会変化に対応し、メールで募集したことがある。

 だが、「すごく味気のない内容が多く寄せられました。文面からなかなか感情が伝わってこないのです。これはダメだとすぐに止めてしまいました」と安岡事務局長が明かす。

 どうしてなのだろう。

『アンパンマン』の生みの親のやなせさんが発案したコンクールだけに、ハガキに絵を描いて応募する人が多い。文字に工夫を凝らす人もいる。そのため、ハガキを見ているだけで楽しくなったり、泣けてきたりする。

 徳久さんは「人の手が加わったハガキは、文字だけでも心が伝わります」と話す。

 これを強く意識するのは高校生のテストを採点している時だ。

 徳久さんはクリーニング会社の会長のかたわら、高校の国語科講師として教壇にも立っている。

「生徒が一生懸命に書いた答案用紙を見ていたら、上手な字であろうが、下手くそな字であろうが、それぞれの個性が伝わってきます。記述回答の欄には、何回も消して書き直したり、消した文字の跡が残っていたりして、こんなことも考えたのか、もう諦めたのかなどと、いろいろ想像してしまいます」

とさでん交通の「後免町」電停が併設されているコンビニエンスストア。壁には「ごめん」行きの路面電車が描かれている(南国市/撮影=葉上太郎)
とさでん交通の「後免町」電停が併設されているコンビニエンスストア。壁には「ごめん」行きの路面電車が描かれている(南国市/撮影=葉上太郎)

 一方、社会でやり取りされる「ごめんなさい」はデジタル化が進み、SNSなどで伝えるケースが増えている。竹中さんは、こうした伝達手段の変化が「ごめんなさい」を変質させていると思うことがある。

「気軽に言えるようになりました。X(旧Twitter)などに『やっちまった。ごめんよ』みたいな乗りで簡単に投稿できます。相手が読もうが読むまいが、吐き出して懺悔(ざんげ)できるのです。もしかしたら、『ごめんなさい』自体が軽くなっているのかもしれません」

2025.01.01(水)
文=葉上 太郎