1964年の東京オリンピック開幕直前、国内外の賓客を迎えるために開業した「ホテルニューオータニ」は、2024年で開業60周年。「ホテルニューオータニ」といえば、「スーパーショートケーキ」をはじめとするスーパーシリーズを思い浮かべる人が、近ごろ断然多い。
このクリスマスシーズンには、「新エクストラスーパーあまおうショートケーキ」が登場。直径18cmのホールケーキが22,680円との高額ながら、すでに予約で完売に近いという。
当時、まだ日本では名前を知られていなかった「ピエール・エルメ・パティシエ(現・ピエール・エルメ・パリ)」の出店に関わり、ショートケーキの最高峰「スーパーシリーズ」の仕掛け人でもある総支配人の高山剛和さんに、世界一のパティシエ、ピエール・エルメ氏の出店や「スーパーシリーズ」誕生の秘話を伺った。
日本ではまだ名の知られていなかったピエール・エルメ・パリの日本上陸
――高山さんは広報の担当として、「ピエール・エルメ・パティシエ(現ピエール・エルメ・パリ)」と「パティスリーSATSUKI」のオープンに関わられました。
高山剛和さん(以降、高山) 1995年に入社し、98年にマーケティング部門に配属されました。ちょうど、ピエール・エルメさんのお店の立ち上げ中で、担当に指名されました。広報を担当しておりましたが、立ち上げメンバーは同年代の方が多く、仕事への熱量が高くて、チーム全員が一丸となっていましたね。
――「ピエール・エルメ・パティシエ」「パティスリーSATSUKI」と、パティスリーを2軒同時にオープンされたのはなぜでしょう。
高山 もともと「アゼリア」というコーヒー&ペストリーショップがあり、そこをリニューアルすることになっていました。ホテルニューオータニ(東京)には、「トレーダーヴィックス 東京」「トゥールダルジャン 東京」という、海外レストランとの提携店がすでにありましたので、次はスイーツを探したところ、エルメさんが浮上してきたんです。
――エルメさんは日本ではまだ無名でしたよね。
高山 彼が「ラデュレ」にいた時代にお声かけしていました。ホテルニューオータニ(東京)でフェアを2回開催され、信頼関係を築けたと判断したので、出店をお願いしました。パリ、ニューヨーク、東京で、エルメの名を冠した店を開業したいとおっしゃっており、ホテルニューオータニ(東京)で世界初の店舗を開業しました。
――「世界一のパティシエ」「パティスリー界のピカソ」というキャッチフレーズはインパクトがありました。ミルフィーユにフォークを突き刺したアバンギャルドで美しい写真が衝撃でしたね。
高山 私どももあの写真にとてもインスパイアされ、この世界観を絶対に伝えたいと思いました。エルメさんの存在は圧倒的で、当時「パティスリーSATSUKI」のシェフ・パティシエであった中島眞介(現・総料理長)は、エルメさんを師匠と仰いでいますし、スーパーショートケーキの誕生にもエルメさんが影響しているんですよ。間接的にですが。
中島は、エルメさんという天才パティシエの仕事を間近で見て、本物のフランス菓子の底力を理解したのでしょう。フランス菓子の道に進んだからにはそこに近づきたいけれど、自分の道はそこではないと。
2024.12.20(金)
文=北村美香
写真=志水 隆