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バリアフリーならぬ「バリアあり」の利点

 そして父は、日常生活の中でも、こまめに体を動かしています。実家は昭和の一軒家ですから、家の中は段差だらけ。バリアフリーならぬ「バリアあり」の家なのですが、これが父の健康維持に役立っているのです。

 実は以前、実家をバリアフリー工事する計画もあったのですが、母のためにやめたという経緯があります。

 ちょうどその頃に母の認知機能が衰えてきたので、ケアマネジャーさんから、

「せっかくお母さんが、この家を自分の家じゃと思うて安心して暮らしよるのに、手すりやスロープをつけて様子が変わったら、『ここはウチじゃない。ウチに帰りたい』と徘徊が始まってしまう危険性もありますよ。お母さんがこの先も安心して暮らすには、家の中の模様替えはせん方がいいと思います」

 とアドバイスを受けて、敢えて段差があるままにしたのです。これが結果的に、父の足腰を強くしてくれました。玄関の土間をよいしょと上がったり、深いお風呂によいしょとまたいで入る。そうやって知らず知らずのうちに日常生活の中に運動が組み込まれていったのです。

「今できよることはやり続ける」が健康の秘訣

 また父は、103歳の今もベッドではなく布団に寝ています。私は上京してからずっとベッド愛用者なので、「ベッドの方が楽よ」と何度も勧めるのですが、父は頑として布団派。いわく、

「ベッドにしたら、座った姿勢から立ち上がるだけになるじゃろ。じゃけど布団なら、床に寝とるところから全身を使うて、よいしょと立ち上がるけんの。これがわしの全身運動になるんじゃ」

 なるほど、そう言われればごもっとも。

 そして、最近こそ回数は減りましたが、100歳くらいまでは、毎朝布団を畳んで押し入れにしまい、毎晩引っ張り出して敷く、というのも続けていました。

 そんな父のポリシーは、

「今できよることを『年じゃけん』言うてやらんようになったら、次やろうと思うた時に、もうできんようになる。自分を甘やかしたら、しっぺ返しがきて困るのは自分じゃけんの。『今できよることはやり続ける』これがわしの健康の秘訣じゃ」

 その心意気、あっぱれ!

 私は秘かに決心しています。自分が年老いた時には、父を見習って「できていることはやり続ける」を習慣づけようと。

 お父さん、大事な教えをありがとう。

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信友直子(のぶとも・なおこ)

1961年、広島県呉市生まれ。父・良則、母・文子のもとで育つ。東京大学文学部卒。テレビ番組の制作会社勤務を経て独立、フリーディレクターとして主にフジテレビでドキュメンタリー番組を多く手掛ける。2009年、自らの乳がんの闘病記録である『おっぱいと東京タワー~私の乳がん日記』でニューヨークフェスティバル銀賞、ギャラクシー賞奨励賞などを受賞。2018年に初の劇場公開映画として両親の老老介護の記録『ぼけますから、よろしくお願いします。』を発表し、令和元年度文化庁映画賞文化記録映画大賞などを受賞。2022年には続編映画も公開した。現在は全国で講演活動を精力的に行っている。

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2024.11.10(日)
文・写真=信友直子