この記事の連載
- あの世でも仲良う暮らそうや #1
- あの世でも仲良う暮らそうや #2
自身の両親の認知症介護を描いた大ヒットドキュメンタリー映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』の監督、信友直子さんの新刊『あの世でも仲良う暮らそうや 104歳になる父がくれた人生のヒント』が好評発売中。
本書の主人公である直子さんの父・信友良則さんは、先日11月1日に104歳の誕生日を迎えられました。毎年誕生日に一番の好物を食べると決めている良則さんには、他にも食のこだわりがいろいろあるそうで――豪快な食べっぷりを捉えた写真とともにお楽しみください。
「あつあつハンバーグ」は生命力のバロメーター
「誕生日に何が食べたい?」と聞かれたらみなさん、何と答えますか? おそらく自分の一番の好物を答えるんじゃないでしょうか。
私は小さい頃、「餃子!」と言っていました。母の作る餃子が大好きだったからです。
父はここ数年、誕生日に「あつあつハンバーグ(父のつけた愛称)」をご所望です。つまりこれが父の一番の好物。某ファミリーレストランの人気メニューなのですが、ハンバーグの上にビーフシチューの角切り肉が載った、かなりこってりした一品です。
この料理、熱した鉄板の上に、銀紙に包まれて出てきます。銀紙を破ると中から、デミグラスソースの香りと共に、ジュウジュウ音を立ててハンバーグが現れる仕組み。
父は毎年これを、
「あっついのう。うんまいのう」
とハフハフ言いながら、この上なく幸せな顔で頬張り、ペロリと完食します。脇に添えられたジャガイモまるまる1個と、ライスも完食。98歳くらいから103歳まで、毎年ですから大したものです。
私としては、誕生日に自分の手料理をリクエストされない悔しさはありつつも、父にこんな脂っこい料理を食べたい欲求があって、しかもちゃんと完食できる「食べ力」も備わっていることが、何より嬉しく心強いです。人間、食べ力があるうちは大丈夫だと、母を看取った経験で痛感しましたから。誕生日のハンバーグは、父の生命力の強さを確認できるバロメーターでもあるのです。
何でも大きいまま頬張る
私は父と暮らして思い知りました。年をとったからといって、誰もが野菜の煮物や豆腐のような、いわゆる「年寄りが好きそうなもの」を好むわけではないのだと。父は今でも揚げ物や肉類など、ガッツリ系の食べ物が大好き。夕飯の献立に動物性たんぱく質がないと、明らかに落胆した顔をしますし、逆に肉料理を出せばそれだけで、
「おお、こりゃあご馳走じゃ」
と喜んでくれるのですから、単純明快すぎて笑ってしまうほど。
そんな父の「食の流儀」はいろいろあります。まず、何でも大きいまま頬張ってその食感を楽しむこと。たとえば桃やとうもろこしは丸かじりしますし、お雑煮のお餅も、のどに詰まらないように小さく切ろうとすると、
「そうなことしたらおいしゅうないわ。餅はかぶりついて引っぱって伸びるんが醍醐味なんじゃ。丸餅のまま入れてくれ」
とダメ出しされるのです。
2024.11.10(日)
文・写真=信友直子