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菓子パン消失の謎

 三人のお手伝いさんは私の好みに合う物を考えてくれるし、健康を気遣ってくれます。カレーを具がなくなるまで煮込むのは、私に野菜を食べさせる工夫だそうです。葉物のサラダはしっかり食べるのですが、お肉の付け合わせやスープの具になっている根菜は、残してしまうことがあるのです。朝食を作りながら晩ご飯のカレーを煮始めるといいますから、有難いことです。

 何が食べたいか訊かれたときは、やっぱり「お肉買ってある?」と言うことが多いです。お肉以外では白滝が好き。肉じゃがもすき焼きも、白滝を多めにしてもらいます。

 でも私好みの味付けにしたすき焼きは、味が濃いので一緒に食べられないとみんなが言います。せっかく塩分を控えて作ってくれたお料理も、食べるときに醤油やソースをドボドボかけてしまうので、意味がありません。私は、肉まんにもソースをつけるほどですからね。

 ですが健康診断を受けても、悪い数値は見つかりません。コレステロール値が高めなのは以前からだし、甘いものをよく食べるわりには糖尿病にもなりません。胃もたれとか胸やけも、めったにしません。一度、胃が重たいなと感じたことがあるのですが、マネージャーから「昨夜あんなにたくさん食べたからです」と遣り込められてしまいました。

 夕飯は、七時までには食べ終えます。そのあとたいてい遅くまで起きているので、夜中になると小腹が空きます。泊まり込んでいるお手伝いさんの目を盗んで抜き足差し足で台所へ行き、柿の種をこっそり取って来てつまむのが至福の時であることは、前に書きましたね。私は完全犯罪だと確信していたのに、小袋の数が減るので実はバレていたのです。

 先日、泊まりがけで地方へロケに行って、スタッフから菓子パンをたくさんいただきました。ホテルの私の部屋に預かっておいて、翌日みんなの朝ご飯にする予定でした。

 朝になってマネージャーと付き人が部屋へ来て、囁き合っています。

「あれ、二つ減ってるわ」

「草笛さんが食べたのね」

 深夜の密室で発生した、菓子パン行方不明事件。容疑者は私一人。まさか数えていたなんて、思いも寄らず……。

きれいに生きましょうね 90歳のお茶飲み話

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次の話を読む草笛光子が『赤い衝撃』で感じた17歳の山口百恵の“見事さ”「二人は恋をしているなって…」

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2024.09.20(金)
文=草笛光子
写真=文藝春秋