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 その瞬間にその場でしか味わえない、作りたてのおいしさを味わうというデザートの醍醐味。その魅力を存分に堪能できる、デザートコースを提供するお店が増えています。

 カウンターに腰かけ、シェフの言葉に耳を傾けながら目の前で仕上げられるひと皿、ひと皿に胸を高鳴らせ、香りや温度、音を感じ、味わいを楽しむひとときは、まさに至福の時間。

 とっておきのデザートコースを味わいに、いざ!

 今回は鎌倉でひっそりと、月に8日間だけオープンするお店をご紹介します。


身を置くだけで、幸福な時間がスタート

 潮風が吹き抜ける鎌倉・材木座海岸。2021年、そのすぐ近くにオープンしたのが、フードディレクターのさわのめぐみさんがオーナーシェフとして腕をふるう、わずか4席のレストラン「Nami Zaimokuza(ナミ ザイモクザ)」です。

 扉の先に広がるのは、気ぜわしい現実とは切り離された穏やかでやさしい空間。広々とした木のカウンターの向こう側で、さわのさんがやわらかな笑顔とともに訪れる人を迎え入れます。

 毎月8日間のみ提供される、「休日喫茶室」と名付けられたコースは、料理とデザートを織り交ぜた全7品とペアリングドリンク(アルコール、またはノンアルコール)。

 「もともとは休日だけ、主人と2人でちょっとしたコースを提供していたので、こう名付けました。私自身がつくり手なので、コロナ禍の制約が緩和されて動けるようになってくると、それでは物足りなくなって、現在のようなスタイルになりました」と、さわのさん。グラスデザートをメインに、季節のフルーツや野菜を使ったコースがふるまわれ、時にはスリランカやラオスなど、旅行で訪れた国がテーマになることも。

「基本的に、季節を味わうレストランでありたいと思っています。しょっぱいものばかり、甘いものばかりが続くとつまらないし、甘いものとしょっぱいものが永遠に繰り返されたら、すごく幸せ。そうでないと疲れちゃうと思うんです。だから、自分でコースをやるならば、甘いものとしょっぱいものを交互で出そうと。デザートコースというより、デザートがメインのコース料理、という意識です」

 5月末から6月初めにかけて開催された「休日喫茶室」は、さくらんぼを使ったグラスデザートが主役。ノンアルコールのペアリングドリンクとともに、さっそくご紹介していきましょう。

◆大黄

 コースのスタートは、「さくらんぼなのに、さくらんぼじゃない」をテーマにした、遊び心あふれるひと品から。さくらんぼのように見えるのは、ラズベリーソースでコーティングした甘酸っぱいリンゴのムースと、チョコレート。軽やかなメレンゲのなかから、サワークリームを使ったさわやかなクリーム、ココアのサブレが現れ、大黄(ルバーブ)のソースが清々しい酸味を添えます。

 「じめじめする季節なので、あまり甘くせずに酸味を取り入れました」と話す、さわのさん。

 ペアリングのドリンクは、ウーロン茶に発酵させたイチゴのシロップを合わせ、炭酸を加えて。甘やかなイチゴの香りがぱっと花開き、ルバーブやリンゴの甘酸っぱさと華やかにマッチします。

2024.06.19(水)
文=瀬戸理恵子
写真=鈴木七絵