猫は“今”を生きている

猫は「愛」。本当に愛すべきもの。──岩合光昭

猫はどこからか遣わされてきた「使者」。──角田光代

角田 今、トトは14歳なんですが、やっぱり、あと何年くらい(生きられる)かな、と考えてしまうことがあります。

岩合 僕はアフリカに住んでいたこともあって、死はごく自然なこととして受けとれるんですが、動物の死といえば、ある母ゾウを思い出します。死を迎えている母ゾウが、家族が傍に来ると、一瞬立ちあがろうとしました。そして、母ゾウの死後、子どもたちは暗くなるまでずっとその周りを回っていましたね。もう周りには草がないのに、根っこを掘るようにして食べて、その周りにもう食べられるものがなくなってしまうまで。翌朝には、子どもたちはいなくなっていましたけど。動物も死を理解するには時間がかかるのだと思います。そもそも、彼らは「老い」を感じていないですしね。

角田 猫には時間の概念がないから、将来を愁うことはない、不安に思うことはない、と言いますね。猫には「今」しかないのだ、と。そういうのは、見習いたいことですし、私も習得したいと思っています。

岩合 我々も、猫のように生きれば老いを感じなくても済むのかもしれない(笑)。

角田 さっき、野生という言葉が出ましたが、以前は集合住宅の10階に住んでいたので、虫が入ってこなかったんです。ここに越してから虫が入って来るようになって、その虫をトトが捕れるようになったら、トトの自己肯定感が上がりました。でも、蝉を咥えているのを見るのはちょっと……。

岩合 僕は逆に「おぉ、やってる、やってる」と。野生みを感じて、素晴らしいと思います。

――最後になりましたが、この特集に出ていただいている方みなさんに、「あなたにとって猫とは」という質問をしているのですが。

角田 私にとっては「使者」でしょうか。どこからか遣わされてきた「使者」なんだと思います。

岩合 僕は気取っていうわけではないのですが、LOVE、「愛」という言葉を。猫は、本当に愛すべきものだと思いますね。

岩合光昭(いわごう・みつあき)

動物写真家。1950年、東京都生まれ。近著にネイチャー・ドキュメンタリー写真集『この素晴らしき世界 What a Wonderful World』。X(@lion007)では愛猫のタマとトモにまつわる投稿が大人気。


角田光代(かくた・みつよ)

作家。1967年、神奈川県生まれ。2005年『対岸の彼女』で直木賞を受賞。近著に『方舟を燃やす』(新潮社)。コロナ禍前に建てた一軒家は愛猫・トトが過ごしやすい工夫が随所にちりばめられている。

 K-POP界のレジェンド、SUPER JUNIOR-D&Eドンヘさん、ウニョクさんをお迎えしたスペシャルインタビュ―、&TEAMJOさんと愛猫ミントの貴重な2ショット、SNSで話題沸騰中のマンガ『猫に転生したおじさん』作者・やじまさんによる特別描きおろしマンガ&シール付録など、「猫のいる毎日は。」特集は「CREA」2024年夏号でお読みいただけます。

2024.06.07(金)
文=吉田伸子
写真=榎本麻美

CREA 2024年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

猫のいる毎日は。

CREA 2024年夏号

猫のいる毎日は。

定価950円

人生に大切なことを猫は全部知っています。過去や未来ではなく、いまを生きること。必要なときに食べ、好きなときに眠ること。人に気を使いすぎないこと――。そう、猫は最高! それにしても、私たちはなぜこんなにも、この不思議な生き物に魅了されてしまうのでしょうか。1998年に日本の女性誌ではじめて「猫」を特集し、パイオニアだったCREAが、終わらない猫ブームが続くいま、12年ぶりに、猫と人との幸せな関係を紐解きます。