猫の美しさには野生がある
岩合 角田さんは、猫のどういうところが好きですか?
角田 歩くときに音をたてないとこや、触り心地がくねくねしているところでしょうか(笑)。あと、人間と対等な気がするところがすごく好きかもしれないです。岩合さんは、どんなところが?
岩合 まずは、猫の美しさですね。とにかく美しい動物だと思います。猫というのは、原型に近い形、原型そのままの美しさ、野生を感じる動物だと思います。動きもね、どこかへ飛び上がったりするときの筋肉だとか、足の運び、目の動き、耳や鼻、そういう一つひとつの動きがとても素晴らしい。僕は12年前から『岩合光昭の世界ネコ歩き』(NHK BS プレミアム4K、NHK BS)というテレビ番組を始めたんですが、それまでに野生動物の番組をたくさんつくっていました。ホッキョクグマ、クジラ、パンダとか。でも、「ネコ歩き」は反響が全く違いました。多分、10倍、20倍くらい「ネコ歩き」のほうが大きい。
角田 そうなんですか。
岩合 そこで、自分が今まで野生動物を通じて伝えたかったこと──自然や人間のなかにあるものを感じてもらうこと──を、猫を通じて伝えるのは素晴らしいことなんじゃないか、と。なので、猫を撮るときは、そういう撮り方をしています。かわいさはもちろんなんですが、かわいさのなかのもっと後ろにあるもの、それを写し留めたいな、と思っています。
角田 猫の後ろにあるもの……。
岩合 僕たち人間の身体のなかにも、野生ってあるんですよ。角田さんの小説のなかには、そういう野生が垣間見られる箇所が出てくるので、すごく正直な方なんだろうな、と思っていました。
角田 (照れながら)ありがとうございます。自分では、あんまり(野生ということを)考えたことはないんですが。
岩合 僕は人の世界の“(心の)あや”がすごく苦手なんですよ。動物としての自然のなかのヒトは理解してるつもりなんですが。なので、角田さんの小説を読ませていただいて、あっ、そうか、人間って、社会ってこうなのか、と(笑)。
2024.06.07(金)
文=吉田伸子
写真=榎本麻美