この記事の連載
- 漫画家・オキエイコさんインタビュー
- 『もしもなんて来ないと思っていた猫』より
漫画家のオキエイコさんが、2023年3月から毎日1ページずつX(旧Twitter)で更新し続けた話題の猫漫画を一冊にまとめた『もしもなんて来ないと思っていた猫』(実業之日本社)。
飼い主に「もしも」が起きた時、家に残された猫たちはどうなるのか。そんな猫たちの様子を描き、猫好きたちを感動と共感の渦に巻き込んだ。
更新の度に大きな反響を呼んだが、オキさんはこの漫画にどんな思いを込めたのか。物語やキャラクターを生み出す時に大切にしたことは? 制作にまつわる話はもちろん、「もしも」の時に飼い主が取るべきアクションについても伺った。
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悲しい思いをする猫を減らしたい
――『もしもなんて来ないと思っていた猫』を描こうと思ったのはなぜですか?
これまでも猫の漫画は描いてきたんですけど、今回は飼い主の緊急時に飼い猫を助ける手帳「ねこヘルプ手帳」を制作したことが大きいですね。人間の都合で死んでしまう動物を減らしたいという思いから制作したのですが、もう少しその重要性を知っていただきたかったんです。
手帳を手にしていただいた方からは、「動物と暮らすことに、そんなリスクがあるなんて知らなかった」という声も多くいただいて、このリスクを知っているのと知らないのでは、「もしも」の時への意識と対策がだいぶ変わってくるなって。注意喚起というとおこがましいですが、そういうリスクを知っていただくための漫画があってもいいんじゃないかと思って描き始めました。
――確かに、自分自身にそんな「もしも」が訪れるなんて思わないかもしれません。
飼い主のみなさん、猫ちゃんたちのことはうんと大切にするのに、自分の健康は二の次なんですよね。一人暮らしの年配の飼い主さんにとくに多いのが、体調を崩していたとしても猫がいるから入院できないとおっしゃる方。私も猫を飼っているので気持ちが痛いほどわかるのですが、飼い主の自分自身が健康でないと猫ちゃんだって生きていけないんですよね。飼い主の健康がその子にとっての幸せになる、というか。だから、自分の心と体の健康をしっかりと見つめ直すことが大事だと感じています。
――そういう思いが今回の漫画に投影されているのですね。
そうですね。主人公は一人暮らしで猫2匹と暮らす凛(りん)ちゃんなのですが、不慮の事故にあってしまい、愛猫たちが待つ家に帰ってこられてなくなるんです。そんな物語からスタートするので、Xで公開し始めると「怖くて見られない」という声がたくさん届いて。
だから、猫好きさんたちを安心させたくて「バッドエンドじゃない」とポストしたんですよ。そうしたら、いろいろな漫画家の友達から「それ、先に言っちゃダメでしょ」って、突っ込まれちゃいました(笑)。だけど、私も読者のみなさんと一緒で、悲しい結末が待っているなら見たくないんですよね。
――結末は最初から決めていたのでしょうか?
実はXに投稿し始めた時には、ラフで100話くらいまでは描き上げていたんです。だから、その時点で終わりも頭の中にはありました。
2024.05.17(金)
文=船橋麻貴