この記事の連載
- 漫画家・オキエイコさんインタビュー
- 『もしもなんて来ないと思っていた猫』より
人と猫が成長していく姿を描きたかった
――漫画では主人公が飼っている三毛猫のマメちゃんと黒猫のクロちゃんのほか、野良猫のサビ猫のボスやシャム猫のセンバなどたくさん猫ちゃんたちが出てきます。キャラクターづくりで大切にされたことは?
クロちゃんは語り部的な役割もあって、漫画の中でもたくさんしゃべる一方、マメちゃんは全くしゃべりません。なぜかというと、読者のみなさんが飼っている猫ちゃんをこの2匹に投影してほしかったから。
元野良猫のクロちゃんはクールでたくましいけど、飼い主のことを俯瞰的に捉えられる子。一方、マメちゃんは内気で言葉も少ないけれど、その行動から飼い主ことを信頼していることがわかります。黒ちゃんとマメちゃん、それぞれ違った性格なんだけど、どこか自分が飼っている猫のように感じる。そう思ってもらいたいと思いながら描きました。
「猫にはこう思っていてほしい」という私の願望みたいなものも含まれていますが(笑)。
キャラクターのモチーフになったのは、うちの子たちですね。マメちゃんは我が家の先住猫のしらす、クロちゃんは2匹目として迎えたおこめがモデルなんです。しらすはビジュアルも性格もマメちゃんに似ていますが、おこめは天然系の性格なのでクロちゃんと結構違うかな。どちらかというと、物忘れが激しいセンバのモデルですね。お昼ごはんを忘れちゃううっかり猫なので。
――かわいい(笑)。マメちゃんとクロちゃんは帰ってこない飼い主を探しに、外の世界に飛び出していきます。冒険物語にしたのはなぜでしょうか?
内気なマメちゃんがクロちゃんをはじめとしたいろいろな猫たちと出会うことで、自分の感情を表に出す姿を描きたかったというのもありますが、実は同じように主人公の凛ちゃんの成長も描きたかったんです。
凛ちゃんは内向的な性格で、人とのコミュニケーションを避けてきた人。それがマメちゃんやクロちゃんの冒険をきっかけに、凛ちゃんも人と関わりを持ち始めます。ちょっとしたきっかけで、人が変われる姿を描ければと思いました。
――冒険を通して猫も人間も成長していくんですね。その物語の中でも、飼い猫、野良猫、人間、それぞれのコミュニティを行き来する様子が描かれているのが印象的でした。
20〜30年前は家猫と野良猫の境目があまりなくて、家と外を自由に行き来したいたんですよね。そういう世界観の漫画や絵本が好きで、今回の『もしもなんて来ないと思っていた猫』は、その影響を受けているんです。『みかん絵日記』とか、『ルドルフとイッパイアッテナ』とか。人と猫の友情物語にも憧れがあるんだと思います。
――Xで半年かけて公開していきましたが、読者の反響の多かったエピソードは?
クロちゃんとお母さんのエピソードは「心が動かされた」とおっしゃってくれる方が多かったですね。
すごい反響があったのは、凛ちゃんを探しに外へ出たマメちゃんが一人でお家に帰って、凛ちゃんを待っているシーン。マメちゃんしか出てこないし、セリフもないんですが、マメちゃんが思っていることは読者のみなさんにも伝わっていたのかなって思います。私自身もこのエピソードが思い出深くて。私が考えて描いたというより、マメちゃんがそう思ったから自然に生まれたエピソードなので。
2024.05.17(金)
文=船橋麻貴