そんなときに救ってあげられる、声を聞いてあげられる、手を差し伸べてあげられるような、そういう世の中を作っていかなきゃいけないのかなと、演じていて僕は感じました」(稲垣)

 

佐藤二朗に「絶対にこのシーンは外せない」と思わせた河合優実

 河合の強い思いを感じるエピソードを披露したのは、佐藤だ。

 予告編の冒頭にも流れる、泣き叫ぶ杏を、多々羅が抱きかかえ、「大丈夫、大丈夫」と優しく宥めるシーン。

「撮影前に河合さんがいきなり僕のところに来て『いいですか?』と、両手で僕の手を握ってきたんです。後日、取材でご本人が『大事なシーンを演じる前に、相手役の体温を感じたかった』とおっしゃっていたんですけど、あのときの僕も河合さんの気持ちをすごく感じて。

 後輩にこんなことをされたら、絶対にこのシーンは外せない、良いものにしたいという気持ちが芽生えたんです。そういう気持ちにさせてくれた河合さんに、僕はすごく感謝をしています」(佐藤)

 初めて聞くエピソードに監督も驚愕し、稲垣も「これを言うのはすごく勇気のいることで、その思いが芝居にも、絵にも出ていますよね。本当にすごい」と絶賛。

「あんまり言うと、そう思って皆さんが見ちゃうから、ちょっと忘れてください」と河合が照れる一幕もあった。

「それ、さっき吾郎ちゃんとも話していたんだよ」

 社会の暗部を照らすシリアスなストーリーの一方で、撮影現場は和やかな雰囲気で進んだ。だが、撮影から1年半が経ち、改めて振り返ると見え方が変わったという3人。

「こういう題材だからといって、話さないようにしようとか、気持ちを閉ざすことは全然なくて。和気あいあいと撮っていた記憶があったんですけど、今日おふたりとお話をして、やっぱりこんなに楽しく話してなかったと思って」と河合が言うと、「それ、さっき吾郎ちゃんとも話していたんだよ」と同意する佐藤。

「役によっては、共演者と話さないタイプの俳優の方もいらっしゃるんですけど、この3人はそうじゃなくて。でも、今日会った河合優実が、ものすごく明るく見えたんですよ。撮影現場では、やっぱり(役柄を)主張していたんだなって感じました」(佐藤)

2024.05.17(金)
文=林田順子