みんなどこかで分かっていたことだったからかもしれない。“楽器を持たないパンクバンド”BiSHがいつまで続くのか。今は上り調子だけど、この先一体どうなるか。そんな不安を、一人ひとりが同じように抱えていたからだろう。私自身が最初に感じた「よかった」という気持ちは、その終わりの見えない不安から解放されたから出てきたのかもしれない。

 渡辺さんはみんなと納得した形で私たちを終わらせたがっていた。鼻をすする音もかすかに響き、誰も周りの顔を見られないまま俯いていると、ハシヤスメが言った。

「お客さんの立場に立ってみたら、『東京ドームで解散』は、BiSHが最後までワクワクさせてくれたなと思ってくれると思う」

 一気に部屋の空気が軽くなる。きっと、彼女もその感情だけではなかっただろう。だけど、ここまでで一番ポジティブな意見だった。

「BiSHは最後までBiSHだったな」

 そう思われたい。それが私たち全員の共通の気持ちなのかもしれないと思った。

「メンバー個人がこの先やりたいこと」、「BiSHがなくなってから」の話になる。

 みんなはどんな顔をしているのだろうと思ってまた周りを見渡すと、急にメンバーが全然知らない人のように見えた。この子たちは私のことをこれっぽっちも知らないし、私も彼女たちのことを何も知らない。そんな気がした。そうだ、私たちはもともとバラバラの人生を歩んできた者同士。そのまま進んでいれば、交わることなどきっとなかった。いったんBiSHを取ってしまえば、驚くほど距離があるのだろう。

 今のこの部屋の空気は異様だった。少し前に“解散”という言葉を告げられたとは思えないほど、不思議と清々しいとも言える空気が漂っていた。

 

 終わりがある、ということがはっきりと告げられ、なぜだか、これまでBiSHで過ごす毎日がこんなにも愛おしく感じていた理由が分かった気がした。みんな心のどこかで分かっていたこと、それがはっきりと言葉にされた。

2024.02.26(月)
著者=モモコグミカンパニー