友人にも相談しづらい、出産後のセックレスの悩みやパートナーの浮気、心のすれ違い……。専門知識を持ったセラピストの介入によって、ふたりの関係を今より良くしていけるとしたら?


 夫婦、婚約者、恋人、パートナーとの関係改善のため、ふたりで一緒にカウンセリングを受ける「カップルセラピー」。アメリカではテレビドラマでも頻繁に見かけるほどポピュラーだが、果たして日本での現状は?

 30年以上にわたり、カップルセラピーの実践と専門家教育に携わってきた明治学院大学 心理学部 野末武義教授と、カップルセラピーを専門に行う「COBEYA」のセラピスト坂﨑崇正氏にお話を伺った。

「アメリカでは、夫婦や親子など複数人を対象とする家族療法が1950年代からあり、日本でも取り入れられるようになったのが80年代半ばです。それから40年近く経ちますが、日本では専門のセラピストが少ないのが実情で、夫婦の問題と向き合う場合でも、妻か夫、どちらかだけがカウンセリングを受けることのほうが多いでしょう」(野末教授)

第三者がいるから話し合える

©AFLO
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 ふたり揃ってセラピーを受けるのは、ハードルが高いと感じる人も多いと思うが、ふたりでセラピーを受けることのメリットとは?

「ふたりで話していると感情的、あるいは堂々めぐりになる場面でも、セラピストという第三者が介入することで冷静に話ができたり、話していくうちに、まったく違う角度からその問題を捉えられるようになったりすることがあります。ふたりで話すだけでは見えなかった“気づき”を得られるのがカップルセラピーのメリットです」(野末教授)

 COBEYAの坂﨑氏も互いの思いへの気づきをメリットとして挙げている。

「たとえば、夫の風俗通いがカップルセラピーを利用するきっかけでも、実は、風俗そのものは表面に現れている夫婦の問題のひとつに過ぎないことが多いんです。セラピーを進めるうちに、妻の束縛が強いなどの不満やストレスのはけ口が風俗だったことが浮き彫りになり、妻が自分の行動にも問題があったと気づけたことで、関係改善に至るケースは少なくありません」(坂﨑氏)

 COBEYAでの相談件数は、不貞やセックスレスが上位を占めるが、どのケースにも共通するのが、カップル間の圧倒的なコミュニケーション不足だという。

「なぜセックスレスになったのか、とことん話し尽くしてからセラピーにきたカップルは、ほぼ皆無です。多くの日本人は『言葉にせずとも分かり合える』という希望的観測を持っていますが、たとえ夫婦であっても別々の個人です。語らずして分かり合いたいなどという贅沢な願望は、まず叶いません」(坂﨑氏)

 野末教授によれば、“自分を知らずして、相手を知ることはできない”。自身のコミュニケーションスタイルを知ることも、パートナーとの関係改善に役立つ。

多くの人が、相手のことを理解しようとせず、一方的に自分の言いたいことを言う攻撃的自己表現か、自分の気持ちや考えをはっきり伝えない非主張的自己表現になりがちです

 合理性と効率性が重視される現代では、自分自身の心を見失いがち。ときどき自分を振り返り、『あのとき、本当はなんて言いたかったんだろう』などと、自分の気持ちや考えと向き合う時間を持つことが大切です」(野末教授)

2024.02.24(土)
文=今富夕起

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