ほとんどの部員が小学校か中学校のときに、修学旅行で京都を訪れてはいるが、はっきり言って見知らぬ街である。明日はコースの途中じゃなくて、スタジアム組だったらいいな、それならば、センパイたちにくっついて旅館からいっしょに出発すればいいから、ゴールの瞬間も見ることができるし――、などとズボラなことを考えていたところへ事件は起きた。

「さっきの場所とこっちだと、どちらが視界、開けてるかな?」

 折返点の前に声がけポイントを作るか、あとに作るか。前後のレースの流れをより見通しやすい場所を選ぶべく、

「ちょっと、坂東。さっきの場所に行って、チェックしてきて」

 と菱先生からお役目を授けられ、私は「さっきの場所」を目指し、さっそくランニングで向かった。

 そして、そのまま迷子になった。

 十五分後、自分のいる場所がわからず途方に暮れているところを咲桜莉に発見され、菱先生から、

「何で一回曲がった道を戻るだけなのに、迷子になるのよ?」

 と心底呆れられた。

「先生、サカトゥーは絶望的なくらい方向音痴なんです」

 と咲桜莉がフォローになっているのか、いないのかわからぬ解説を挟んでくる。

 そう、咲桜莉は正しい。

 私は自他ともに認める「絶望的なくらい方向音痴」だった。

 迷子になった理由は承知している。大きな通りを進んで、どちらかに曲がればよいとは知っていた。正解は左だった。しかし、右に曲がった。私は賭けに負けたのだ。

「こんな場所、通ったっけ?」

 ほのかな疑いの念を抱きながらも、ずんずんとそのままランニングで邁進し、見覚えのない街並みに迷いこんでしまった。

 もっとも、怪我の功名と言うべきか、後方から、

「違う、そっちじゃないッ」

 と叫んでいたらしき咲桜莉の声は、烏丸通の車の往来の音に搔き消され、私の耳にまったく届かなかった。結果、道路幅の狭いほうが応援の声も通りやすいだろう、という気づきを先生が得て、声がけポイントがその後、正式に決まった。

2024.01.30(火)