この記事の連載
- FUJI TEXTILE WEEK【前篇】
- FUJI TEXTILE WEEK【後篇】
富士山麓にある富士吉田にて、12月17日まで行われている「FUJI TEXTILE WEEK」。今年で3回目の開催となり、アート展とデザイン展で構成されている、テキスタイルと芸術が融合した“布の芸術祭”です。
前後篇に分けて分けてお届け。前篇ではアート展「Back to Thread / 糸への回帰」の展示内容について詳しくご紹介します。
街歩きを楽しみながらアート鑑賞を
オリエンテーションの会場として案内された「FabCafe FUJI」は、昨年オープンしたばかりのモダンなカフェ。空き家をリノベーションして誕生しました。実は「FUJI TEXTILE WEEK」の展示会場となる旧文化服装学院やFUJIHIMURO、旧山叶などもすべて、かつては空き家だったそう。本イベントにはそうした場所を活用しようという思いも込められていて、建物の保全活動にもなっています。
最初に訪れたのは旧山叶。もとは今年3月に廃業した商社・山叶産業があり、アーティストが作品展示の準備に取り掛かった際は、まだ荷物が散乱した状態だったと言います。
1973年建設のビルはレトロ感満載。入るとすぐに、顧剣亨の作品「Map Sampling_Fujiyoshida」が出迎えてくれました。
顧は写真家。「Map Sampling_Fujiyoshida」では、普段彼が用いている、複数のデジタル写真を手作業でピクセルごとに編み込む手法「デジタルウィービング」が使われており、明治・大正・昭和・平成の富士吉田の地図を透け感のある生地にプリントしています。
そして旧山叶の屋上には、香港のアーティストであるジャファ・ラムの「あなたの山を探して」が展示されています。雲のような形の丸みを帯びた骨組みには白い布が張り巡らされていて、その布は富士吉田の機屋から収集したB反を使用したものです。
風が吹くと布がはためき、その先には雄大な富士山の姿が。しかし布が揺れることで見え隠れし、はっきりと姿をとらえることができなくなります。
ジャファ・ラムは「富士山は神のような存在でリスペクトしているが、あえて隠すということをしてみた」と制作の意図を説明。彼女は富士吉田にやってきた際、多くの観光客が交差点に立ち止まり、必死に富士山を撮影しようとする姿が強く印象的に残ったと話します。
「観光客は多く来ているのに、一方で機屋が廃業するなど、織物産業に関心を持たれていないことが気になった。もっと手仕事の素晴らしさに目を向けてほしい」とメッセージを伝えていました。
2023.12.06(水)
文・写真=岸野恵加