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街の伝統産業とリンクする清川あさみの刺繡作品

 次は山梨中央銀行の支店長が管理していた「KURA HOUSE」へ。蔵に挟まれた形で住居が建てられていて、現在はギャラリー、店舗として利用されています。古びた空間の階段を注意深く上がると、清川あさみの作品「わたしたちのおはなし」9点が待っていました。

 2階には数点の本に刺繍が施された作品が、イーゼルに置かれています。楽譜をベースにした「別れの歌」は、楽譜の上に構造的に刺繍を施したもので、リズムを感じさせる作品になっています。

 3階に上がると、大きな作品「Serendipity」シリーズの新作がお目見え。まるで絵画のような仕上がりになっていて、細部までまじまじと見入ってしまいました。

 続いて旧糸屋では、インテリア雑貨ブランド・PACIFICA COLLECTIVESが、長年糸屋を営まれていた商家を架空のラグ工場に見立てたインスタレーション「Small Factory」を展開。制作途中のラグが展示されています。1点1点手作業で制作されているラグはどれもカラフルで、見ているだけで元気が湧いてきます。

 また宿泊施設・SARUYA HOSTELでは、ポップアップを兼ねたPACIFICA COLLECTIVESnインスタレーションを展示。実際にラグを購入することもできるので、気に入った作品をインテリアの一部にしてみては? 1万円台からと、手作業の作品とは思えないほど、手が届きやすい価格帯です。

 ぐるりと旧糸屋の建物の裏側へ回り込むと、沖潤子の作品「anthology」が登場。畳には全国から集められた7,000個の糸巻きが敷き詰められ、お母様の遺品に刺繍を施した作品だといいます。「物に込められた時間」が表現されているそうです。

 その隣の部屋には、ドキュメンタリーアクター筒による「unsound dresser : 化粧箱、鳴ラナイ」が展示されていました。戦後に富士吉田の繊維産業を牽引した織り手を、実在の人物を取材して演じる「ドキュメンタリーアクティング」の手法を用いて筒自らが演じます。

 また筒氏は、街に生きる人の語りをもとにした音声ガイド式の作品も発表。参加者はガチャガチャで音声キットを購入して街を歩くと、そこに堆積した記憶に出会うことができます。

 以上がアート展の展示内容です。いずれの作品も、富士吉田の街、そしてそこで長年にわたり営まれてきた伝統産業と強くリンクしており、そこに息づく街や人々の歴史を感じることができました。

 富士吉田の街には外国人観客も多く訪れ活気付いていますが、このアート展を鑑賞した後は、きっとひと味違う景色に見えてくるはずです。

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「FUJI TEXTILE WEEK」

期間 11月23日~12月17日
所在地 山梨県富士吉田市下吉田本町通り周辺地域
時間 10:00~16:00(各会場への入場は15:30まで)
料金 1,200円※高校生以下無料
休み 月曜
https://fujitextileweek.com/

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2023.12.06(水)
文・写真=岸野恵加