だが、この人事は「Glass Cliff(ガラスの崖)」ではないか、と評する人も多い。

企業の先行きが危うくなると、なぜか女性が…

 もともと「Glass Ceiling(ガラスの天井)」という言葉がある。女性や少数民族が企業の中で頑張って、出世の階段を上がって行っても幹部や役員、経営陣にはなれないことを、見えない天井に譬えた言葉。ところが、その企業が崖っぷちに追い詰められた時、なぜか女性や少数民族が経営陣に抜擢されることが多い。

 それを「ガラスの崖」と呼んだのは、2004年、英エクセター大学のミッシェル・ライアン教授とアレックス・ハスラム教授で、英米の多くの企業を調査し、約120人を対象にアンケートを取ったことで、実際に企業の先行きが危うくなると女性や少数民族に経営を任せる率が高いことを検証した。

 その理由としてポジティヴなのは、女性や少数民族は危機を突破する画期的なアイデアを出すことを期待されるから。

 

 たとえば、コカ・コーラに圧倒されていたペプシコーラのペプシコは2006年にインド系の女性インドラ・ヌーイ氏をCEOに抜擢、コーラよりもビタミン飲料や果汁飲料などヘルシー食品に重点を移してペプシコを総合食品企業に脱皮させた。

 コピー機の需要減少で危機に陥ったゼロックスは、2009年にアフリカ系の女性アーシュラ・バーンズ氏をCEOに抜擢し、紙からデジタルのデータベース作成へと業務転換して生き残った。

 2008年の金融危機で破綻したGM(ゼネラルモーターズ)は18歳から自動車工場で働いてきたメアリー・バーラ氏をCEOに抜擢し、電気自動車、自動運転などハイテクに転換して会社を再生させた。

 しかし、裏を返せば、白人の男たちは順風満帆な時は企業の舵を自分たちで独占して現状維持するが、目の前に氷山が迫ってくると女性や少数民族を先頭に押し出して改革させて失敗の責任を押し付ける、ということでもある。

 それって最近の日本の政党もやってるよね。言いにくい差別的なことや人道的にヒドいことは、梅村みずほとか杉田水脈とか丸川珠代に言わせて、おっさんたちはその陰に隠れてさ。

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2023.11.21(火)
文=町山智浩