その点、ササポンは本当にクールというか、落ち着いているんですよね。私の仕事が上手くいかなかったり、恋愛で失敗したりして、「うわー!」ってリビングで叫びながらもがいていても「まぁ、すべて勉強だからね」「アキちゃんの人生が羨ましいよ」と淡々と言ってくれる。ササポンの前では濃いメイクも、愛想笑いもしませんでした。自分を飾ったり、取り繕う必要が一切なくて、自然体でいられるようになったんです。

――次第に変化していったんですね。

大木 そうですね。でも、思えば最初から「もしかしたら、何かが変わるかもしれない」という予感はありました。私が入居したその日にササポンと2人で食事に行ったんです。普段は食事は別々でしたけど、その日は近くの定食屋さんに。

 そこでついポロっと「私、仕事もなくて、お金もなくて、恋人もいなくて、これからどうしていいかわかんないんですよね」って呟いたら、ササポンが「でも、誰にでも1つぐらい才能あるんじゃないの?」と。その何気ない言葉に、なんだかすごく泣けてきてしまって。私がボロボロと涙をこぼしてもササポンは動じずに、自分のおしぼりをポンと渡してくれるだけだったんですけど(笑)。文筆業を頑張っていこうと思えたのは、あの日の言葉があったからです。

取材・構成 加山竜司

「もし父親が生きていたら『見知らぬおじさんと暮らす』なんて言えなかった」アイドルから作家の道へ…大木亜希子さんが経験した不思議な「同居生活」と“その後”〉へ続く

2023.11.10(金)
取材・構成=加山竜司