大木 たしかに剥げたところをマッキーで黒く塗って履いてた。

「ササポンと一緒にいればアキの気疲れは取れるんじゃないかな、と」

 この子は周りの人にすっごく気を遣うんですよ。仕事関係の人はもちろん、たとえばお店の店員さんとか、もう会わないような人であっても、すごく愛想よく接する。そういう気遣いのしすぎで、いつも気を張っているんじゃないかな、大丈夫かな、って心配していたの。

 その点、ササポンって精神的にめちゃくちゃ安定しているから、たとえ気を遣われても「適当によろしく」「自分でやるからいいよ」ってなる。ササポンと一緒にいればそういうアキの気疲れは取れるんじゃないかな、と思って。それでササポンを紹介したんだよね。
 

――その時点で、お姉さんがササポンさんの家を出てから、およそ14年近く経っていたわけですが。

姉 ササポンの家を出たあとも、時折連絡していたんです。「ササポン、ご飯行こー!」って。

ササポン これまで10人くらいがうちに住んだけど、退居後にも付き合いがあったのはこの人(姉)だけです。

大木 姉はすごくフランクな性格なので、誰とでも仲良くなる。誰かと仲良くなったら自分の友だちや、母親にも紹介するんです。姉とササポンが家族みたいな感じになっていた、という印象がありますね。

 あとは、ササポンが「夢を追いかける若い人を助けたい」からシェアハウスをしていたのも知っていたし、アキがそういうタイプだから、2人は合うんじゃないかな、って。ササポンとアキ、両方の事情を知ったうえで、一緒に住んだほうがいいと思ったんです。

ーー実際にササポンさんと暮らしてみて、いかがでしたか。

 

「仕事も恋愛も完璧な勝ち組にならなきゃ」という呪縛

大木 当時28歳だった私には「30歳までに成果を出して、仕事も恋愛も完璧な勝ち組にならなきゃ」という強迫観念のようなものがありました。振り返れば、必要のない“呪縛”だったなと思いますが、当時は周りから自分がどう見られているのかを考えることにとにかく必死でした。それである日突然、コップの水が溢れるように心を病んでしまった。

2023.11.10(金)
取材・構成=加山竜司