この記事の連載
タイ・美しき手業 #1
タイ・美しき手業 #2
王室が守護した伝統技術、恵まれた自然環境、民族特有の美意識……。様々な幸運が重なって、タイはハンドクラフトの王国となった。
刺繍、バスケット、そして青磁器。匠たちの物語をここに。3人の匠を3回に渡りご紹介。
国宝級の針仕事がコレクターを歓喜させる
◆Traditional Embroidery(タイ伝統刺繡)
ピヨーロット・ブアルアンさん
![3%が金、97%がシルクという糸で織り上げるメッシュは、完成までに膨大な時間を要する。ジェムストーンを刺繡で囲むアクセサリーは新技術のコンテストで入賞を果たした。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/e/6/1280wm/img_e6f59376ecdf8bb4f276aeca1818efa7275862.jpg)
「タイにおいて、高級な伝統刺繍が施された衣装は、実用品として使われる機会はもはや少なく、現在では、コレクション需要が主となっています」
![ピヨーロット・ブアルアンさん。20代後半、当時勤めていた医療機器メーカーの倒産を機に、王室の運営する手工芸学校に1年間通い、刺繡技術を習得。2023年7月26日(水)~30日(日)にバンコク国際貿易展示場で行われる「クラフツ・バンコク」に出品予定。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/e/3/1280wm/img_e374a82533fdd6b21ca57ab1f7e017fb319834.jpg)
そう語るのは、ピヨーロット・ブアルアンさん。精巧な刺繍技術を有する、現代の名匠だ。絹の生地や金色の糸、そして華麗なビーズを使って生み出す作品は、一般の市場を通じて入手することは難しい。ごく限られた需要に支えられた、真の贅沢品なのだ。
![タイ伝統刺繡には、極細の針を用いる。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/9/3/1280wm/img_93dc9452e278f188951760e3f26f80e6185319.jpg)
彼女は、確固たる支持者を獲得している。そんな顧客から寄せられるオーダーは、礼装、人形劇のための衣装、アクセサリー、純粋に装飾品としての壁掛けなどと、実に幅広い。一点物であるから、その価格は、日本円にして100万円を超えることも少なくない。
![タイ女性の正装におけるトップスが「サバイ」。絹の布地に施された最高級の伝統刺繡。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/3/2/1280wm/img_327c1bf7c7d4185f7ff5656c99ed54e8441321.jpg)
この手工芸の伝統は、14世紀に始まったアユタヤ王朝にまでその歴史を遡ることができる。往時は、女性王族が自ら刺繍を手がけていたというから、まさに優美を象徴する手業なのである。
![下絵も自分で描いている。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/4/b/1280wm/img_4b2ba3b53c85258a185e3230d5c9cef6411353.jpg)
現在、ブアルアンさんと同じクオリティでこの刺繡を行うことができるのは、全国でも5人しかいないという。
その状況に鑑み、彼女は、自らの技術を広め、後世に繋ぐ努力を重ねる。タイ伝統刺繍の魅力をPRし、時には少人数のワークショップを行い、惜しみなくその技術を伝えてもいるのだ。
![壁掛け作品は、近づいてディテールを確かめると、その精緻さに圧倒される。](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/6/5/1280wm/img_6562e5205b9a96f2fd87f29cbd2447a3499922.jpg)
![](https://crea.ismcdn.jp/common/images/blank.gif)
Column
CREA Traveller
文藝春秋が発行するラグジュアリートラベルマガジン「CREA Traveller」の公式サイト。国内外の憧れのデスティネーションの魅力と、ハイクオリティな旅の情報をお届けします。
2023.06.14(水)
文=下井草 秀
撮影=佐藤 亘
CREA Traveller 2023 vol.2
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。