受賞はプレッシャーでしかない

――3月10日の日本アカデミー賞の授賞式は、いかがでしたか?

岸井 三宅監督と、プレゼンターとして登壇された『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督、西島秀俊さんたちと一緒にいて、ずっと映画の話をしていました。最優秀賞の受賞は本当にサプライズなので、考えてもしょうがない。映画の話をしているときは安心して、楽しくて、青山真治さんの追悼上映の話をしていましたね。でも、すごく緊張もしていましたよ。会場には受賞者しか入れないのですが、同じテーブルの阿部サダヲさんたちが話しかけてくださったので、他のテーブルよりはゆるやかな時間が流れていたと思います。

――決まった瞬間のお気持ちは覚えていますか。

岸井 決まった瞬間はもう、すこーんとなにかが抜けちゃって。本当に予想外のことだったので、体ががくんとなって、でもすぐに立ち上がらなくちゃいけなくて、震えてた。

――自分の言葉でしっかりスピーチされていたようにお見受けしました。

岸井 そう思ってもらえて本当によかったです。映画が好きで、昔の映画からずっと観てきて、たとえばジョン・フォードの作品だったら、80年以上前のものじゃないですか。フィルムにおさめられた当時の光をいま見ているわけで、「あ、これに私出会いたかったんだ」って思う瞬間があるんですよ。受賞のスピーチではうまく言えなかったんですけど、私は役者として、まだ出会う前の誰かのために生きることができるんじゃないかと。

 どうしたらそれができるだろうと考えていたとき『ケイコ』の編集をしてくれた大川景子さんから、「『ケイコ』はそれができる映画だ」と言ってもらえて。先日ふたりで劇場に『ケイコ~』を観に出かけて、久しぶりだったのですが、もうほんっとにいい映画だなって思いました。人間が生きることの根源が描かれているって、ふたりで褒め合ってしまいました。

――受賞は励みになりますか?

岸井 受賞はみんなが喜んでくれたことが、すごくうれしいです。自分にとってはもう、プレッシャーでしかない。

2023.05.12(金)
文=中岡愛子
撮影=榎本麻美/文藝春秋
ヘアメイク=村上綾
スタイリスト=秋田百合美
衣装協力=MM6 Maison Margiela/ANNE-MARIE CHAGNON/MANA