――映画はかなりお好きだと。

岸井 はい、もう大好き。ないとダメですね。逃げ場所みたいな感じです。

コンプレックスなのか劣等感なのか

――映画でもドラマでも、画面越しに拝見する岸井さんはいつもストレートでむき出しな感じがして、その存在のありようにすっと安心できるんですが、そういうふうに感じる観客は多いんじゃないかなと。そのあたりは、意識されていないんですよね? きっと。

岸井 (しばらく間があって)こういう人もいるよって、思ってもらいたいのかもしれない。

――それは役として? 自分として?

岸井 役として……うーん、自分として、ですかねえ。あぁ、わかんないなぁ(しばらく考える)。

 表舞台に立っていると、たとえば私は30に見えないとか、背が小さいとか、美人じゃないとか、言われるじゃないですか。でも私は30年生きてるし、見えなかろうとなんだろうと、この背でずっと生きているし、「私はいる」。それで、こういう職業をしていることにコンプレックスなのか、劣等感なのか、あると思います。

 もし仮に、その場で変にがんばってきらきらしようとしたら、その役自体が嘘になっちゃうかなって思います。私がこれで生きてきて、役をもらっているということは、きっとありのままを出すべきなんだって。ケイコの役なんてまさにそうで、私が演技をしてしまったら本来伝わるものが半分になると思ったので、「私がいまを生きている」姿を撮ってもらうのが一番いいなと。

 

――きらきらしようと葛藤したことはありますか?

岸井 あっ、きらきらしたいと思ったことは一度もないんですよ。宣伝やバラエティに出演するとヘトヘトになってしまうんですが、完成した映画はぜひ観てほしいのでがんばらないといけなくて。『ケイコ 目を澄ませて』に関しても、映画そのものの素晴らしさと熱量が伝わったうえで映画館に足を運んでもらえることが一番うれしいから、そのためにどうすればいいか、家に帰っても考えちゃいましたね。

2023.05.12(金)
文=中岡愛子
撮影=榎本麻美/文藝春秋
ヘアメイク=村上綾
スタイリスト=秋田百合美
衣装協力=MM6 Maison Margiela/ANNE-MARIE CHAGNON/MANA