岸井 世の中がもう女優じゃなくて俳優でいいのかなって。あと俳優部とはいうけど、女優部とはいわないし、録音部、照明部と同じように、自分のことを俳優といったりします。あと舞台をやっているときは、「役者」といわれることが多いですね。女優といわれると、ふふんってなるけど、役者か俳優かといわれたら、どちらでも大丈夫です。

 

――女優といわれて、ふふん、となるのはなぜでしょう?

岸井 なんでしょう、個人的な印象としては、女優といわれてもあんまりうれしくないのかも(小さく肩をすくめて)。私は演劇からキャリアをスタートしたこともあって、「みんなで演劇をつくる」という感覚がすごく好き。だから、たまたま表に出るのは俳優部の俳優だけど、みんなで一緒につくっているという意識でずっとやってきて、女優といわれると、なんだか言葉として強いなって思います。

スカウトなのにこのままで大丈夫か

――19歳で初めて舞台に立ち、役者をはじめられた頃のこと、どんな風に思い出しますか?

岸井 はじめたというか、ただ事務所に入っているだけという感じですね。ドラマの主人公のクラスメイト役とか、エキストラみたいなセリフのない役をやっていたので。

――それはオーディションを受けて?

岸井 行って受かっても、セリフはなかったです。私、一応スカウトなので……。スカウトされたのに、このままで大丈夫かって、20歳のときに自分で劇団に応募したんです。ドラマのセリフのない役では絵の中の背景みたいに扱われていたのが、舞台ではどんなに役が小さくてもみんなで一緒につくることができるんですよね。最初は(脚本の)文字だった物語を、みんなで立ち上げていくところがすごく好きで、映画もそうですよね。

 最初はスカウトだったけど、演劇をやりはじめたら映画のプロデューサーがそれを見ていて、そこから映画に出演する機会が増えていって。だから、役者をやりたいと思ったきっかけは、演劇にありました。

2023.05.12(金)
文=中岡愛子
撮影=榎本麻美/文藝春秋
ヘアメイク=村上綾
スタイリスト=秋田百合美
衣装協力=MM6 Maison Margiela/ANNE-MARIE CHAGNON/MANA