和服の似合う古風な“昭和顔”が魅力の黒木 華さん。

 スクリーンの中で見せる背筋がシャンと伸びた静かな立ち居振る舞いには迫力さえ感じるが、普段の本人はいたってニュートラル。

 「意外に現代っ子です」といたずらっぽく笑う。

 江戸時代末期を舞台にした新作映画『せかいのおきく』は、悲劇的な出来事に巻き込まれて声を失ったおきくと、糞尿を買い取って生計を立てる貧しいふたりの青年たちを描いた物語。

 墨絵のようなモノクロ映像やシリアスなテーマからは硬質な印象を抱くが、実際は驚くほど爽やかでみずみずしい、恋と青春を描いた物語だ。

 ちょっと頑固だけど健気で、品がありながらも時に無邪気な一面も。多面的な魅力を放つおきくを演じた黒木さんの、ちょっと意外な素顔に迫った。


声を失った役。身振り手振りが現代っぽくならないように

――『せかいのおきく』に抱いた最初の印象を教えてください。

 すごくロマンティックな物語だと思いました。そして「しゃべらない役なので、セリフを覚えなくていい」と言われて(笑)。この映画の企画・プロデュースを務めた美術監督の原田(満生)さんから「世界に向けた時代劇を作りたい」と伺いました。今までとは違う時代劇に参加できるんじゃないかと思ったし、声をかけていただいたことがすごく嬉しかったです。

――おきくの印象はいかがですか?

 芯があって、前を向く力のある人。そして、“おきゃん(活発な女性のこと)”。監督がずっと「おきゃん」、「おきゃん」とおっしゃっていたので、演じる上でも意識しました。

――物語の中盤からは、ある出来事によって声を発することができなくなります。身振り手振りだけで演じる難しさは?

 言葉を使わずに伝えることは難しかったですね。感情表現に関しては目や表情で伝えることができるのですが、特に難しかったのは「書く」や「行く」などの、具体的な事実を伝えること。やりすぎても違うし、身振り手振りが現代っぽくなってもいけないですし。とはいえ私もその時代を知らないので、なるべく物語の中で違和感のないように、おきくがやるであろう動きを自分の中ですごく考えました。

――恋心を抱く中次(寛一郎)の名前を紙に書き、照れながら身悶えるシーンはとてもかわいかったです。

 ありがとうございます。ただ、30代にもなって身悶えるなんて、ちょっと恥ずかしかったです。あんなふうに人を想う気持ち、忘れてたなって(笑)。おきくの無邪気な部分も魅力的ですよね。

――おきくに対して、寛一郎さん演じる中次が全身を使って愛を表現するシーンも素敵でした。中次は言葉を発せるはずなのに、なぜ言葉を使わない告白をしたのでしょう?

 きっと、おきくと同じ立場で、同じ表現で伝えようとしてくれたんだと思います。大きな体を使って気持ちを伝えてくれることで、よりロマンティック度が上がるといいますか。切ないし、愛おしくなりますよね。想いが伝わる素敵なシーンだと思いました。

2023.04.24(月)
文=松山 梢
撮影=佐藤 亘
スタイリスト=梅山弘子(KiKi inc.)
ヘアメイク=新井克英(e.a.t...)