まだバイトを辞めていない理由

――アルバイトをしていた時期もあると伺いましたが、辞めたのはいつごろですか?

岸井 バイトはねえ、辞めてないんですよねえ。行けなくなったのは、2019年の映画『愛がなんだ』が公開されたころですね。でも、その後もけっこうしてました。周りの人が引くくらい。

――引くくらい? 何のアルバイトですか?

岸井 皿洗いのバイトをしてて。

――たしかにご著書で、年末には決まってお寿司屋さんのアルバイトに行っていたと書かれていましたよね。

岸井 そうそう、いまも行っていて。だからいつ辞めたんですかって聞かれると、辞めていないっていうことになる! 好きなんで行ってるんですよね。

――どういうところがお好きなんですか?

岸井 うーん、私にとって、俳優部だけで生きるっていうことが……言い方が難しいですね。奇妙な世界だと思うので、そこだけで生きるのはちょっと怖いなって思う。だから、安心します。アルバイト先に行くと。

 

いつも普通でいたいし、生活を大事にしたい

――直近でいつ行きましたか?

岸井 2月に行きました。その時は手伝わなかったんですけど、毎年2、3回は顔を出しに行きますね。「ビール、瓶で」ってオーダーが通ったら、「やっとくよー」っていう掛け合いもすごく好きだし、当時弟子だった16歳の子がもう20何歳なの!? って。もう7年くらい経ってるかもしれない。みんな普通に接してくれるんで、それがうれしいですね。安心する。

――その安心感はきっと、役者としての岸井さんに欠かせないものですよね。岸井さんが岸井さんであるために、というか。

岸井 そうですね。存在として、普通に接してくれる人たちがいることは、欠かせないです。私はいつも普通でいたいし、生活を大事にしたいんですよね。植物とか、家にいる時間とか、素朴な生活をしている自分が好きですね。映画を観たり本を読んだりすることをお勉強のためだなんて一度も思ったことがないし、ただただ好きで、映画を観て本を読んでいるだけで安心します。

2023.05.12(金)
文=中岡愛子
撮影=榎本麻美/文藝春秋
ヘアメイク=村上綾
スタイリスト=秋田百合美
衣装協力=MM6 Maison Margiela/ANNE-MARIE CHAGNON/MANA