だから連載はできないですね。怖すぎて。だってどうするんですか、最後まで謎が解けなかったら!

有栖川 呉さんは、まじめ。

呉 小心者なんです(笑)。有栖川さんはどこまで考えてから連載を始めます?

有栖川 頭のなかで七割、八割はできてないと一枚も書けない。書き出せないんですよ。とりあえず書き始める、は私の場合は困難ですね。呉さんはたぶん、一割二割で突っ込んでいったりするでしょ。

呉 行きますね。企画だけで突っ込んでいきます。

有栖川 それはかっこいい。まったく違う書き方です。

呉 違いますね。だから本格ミステリーにはならない。ずっと好きで、書きたいという気持ちがあるにもかかわらず。

有栖川 本格ミステリー、書いてるじゃない? 『蜃気楼の犬』なんか本当によくできた本格ですよ。

呉 確かにあれは、僕の中で一番本格っぽい作品ですね。あれ、第一話が乱歩賞の受賞後第一作だったんですよ。デビュー作が本格ミステリーとはぜんぜん違う作品だったので、本ミスを書けるところを見せようと気負って書いたんです。でもあれも、死体が発見される場面から始まるのに、その先のことを何も考えてなかった。

有栖川 うっそー。

呉 何も。どうしようと思って。

有栖川 すごいね。あれはいい短篇ですよ。

呉 なんとか書きましたけど。締切があったからですね。いまはもう採用していない「締切」という制度がまだあったんで。

有栖川 採用していない(笑)。呉さんのなかではね。「弊社では締切というものを採用しておりません」(笑)。

◆感情を刺激するミステリー

呉 有栖川作品は反復には違いないんですが、時折、理詰めのロジックじゃない部分がどばっと出てくることがあって、それがまたいいんですよね。怒りがぼろっと出てきたり、抒情がほとばしったりする瞬間があって。理詰めの作品を書き続けている方の作品だからこそ、不意にナマの感情に出会った時に感動するんです。

『絶叫城殺人事件』なんかそうですね。作家アリスがものすごく怒りを表明する場面があって、僕は読んでいて胸ぐらをつかまれた気持ちになって、それがたまらない。有栖川さんにしかできない感動のつくり方だと思います。

2023.05.05(金)