呉 ないです。この話を書くために観ました。

有栖川 まじか。私にとっては特別な映画なんですよ。タイトルが出てきただけで突き刺さった。

呉 失敗したな……。

有栖川 しかもよ、作中に「イエロー・センター・ライン」の歌詞が出てくる。

呉 『青春の殺人者』の主題歌だったので使っただけです。

有栖川 映画の中で、ゴダイゴの曲が何曲も使われていました。それも「ガンダーラ」とか「モンキー・マジック」が大ヒットする前のファーストアルバム、『新創世紀』からの曲が。ゴダイゴの音楽はいまも頭の中で鳴っている。歌詞はすべて英語だけれど、「イエロー・センター・ライン」だけでなく、映画で使われている曲はほとんどフルコーラス歌える。最後に流れた曲、覚えてる? 「IT’S GOOD TO BE HOME AGAIN」。あれ聴くとね、今も何回かに一度は泣きそうになるんですよ。

呉 主人公と同じ歳ってことは、『青春の殺人者』を高校の頃に見たんですか?

有栖川 そうです。あの小説で描かれていた子たちは長野県上田のあたりで育っている。ちょっと田舎の子たち。街育ちの私からすると同世代でもぜんぜん違うんですよ。だからそのギャップもあって『おれたちの歌をうたえ』は、私の世代のことを書いているようにはあまり感じられなかった。

 ところが、一人が「イエロー・センター・ライン」をカラオケで歌うねん。この世代を象徴していると私を含めて誰も思っていない歌を。「呉さん、恐ろしいやつだな」と思いましたよ。しかも有栖川有栖の本が出てくる。どうでもいい場面にぽんと。作者名は書いていなくて、知ってる人はわかるやろ、みたいな感じで。どうです、刺さりましたか、と作者に問われた気がして、「おいおい」と狼狽した。

呉 『おれたちの歌をうたえ』は難しい作品だったんですよ。おっしゃる通り、「団塊の世代」の下の、団塊じゃない世代、つまり「そうじゃない世代」を書こうと思ったんです。

2023.05.05(金)