呉 いま振り返ると、難しすぎたなと思う部分もたくさんありますね。『おれたちの歌をうたえ』は自分と距離のある登場人物を描き、自分が実感できているという確証がないテーマを扱おうとした。チャレンジだったし、冒険だったなと思いますね。でも、だからこそ、ぜひ、読んでほしい作品です。

有栖川 読んでみてほしいですね。そしてゴダイゴの「イエロー・センター・ライン」を聴いてほしい。

◆「ミステリーって面白いよね」をあらゆる角度から示したい

呉 有栖川さんが最近、これはチャレンジしたなという作品はありますか。

有栖川 最新作の『捜査線上の夕映え』ですね。アリバイ崩しの話なんですが、トリックがわりとどうでもいい(笑)。
 あれ、いいトリックだったらダメなんですよ。そう思いません?

呉 答えづらいですけど(笑)、びっくりするようなトリックだったら何かが損なわれるということですよね。

有栖川 すごいことを考えたね、盲点を突きましたね、というトリックを使うと、あの話の場合は失うもののほうが大きい。その兼ね合いですね。派手なトリックがない代わりに犯人がどういう人物だったかとか、ドラマが浮かび上がってくる。若い時にはできなかったと思います。

呉 比重があると思うんですよ。人間を描くことに重きを置くか、あくまでも謎解きをメインにするのか。とくに本格ミステリーの場合、犯人の内面を描けないという制約があるじゃないですか。『捜査線上の夕映え』に関しては、本格ミステリーの驚きよりも、小説としての驚きに比重があるんじゃないですか。

有栖川 でも、本格ミステリーだから書けた。だから、あくまでも本格ミステリーなんですよ。

呉 ドラマのほうに体重が何グラムか多く載ってるな、とは思っていませんか?

有栖川 比重は作品ごとに違う。でも、どっちに体重が多く載ったとしてもミステリーなんです。ミステリーが好きで、ミステリーって面白いよねってことを表現したいというのが作家としてのベースだから。ミステリーにはこんなにいろいろな面白さがあるというのが出せたらいいかなと。そこは呉さんと一緒でしょう。

2023.05.05(金)