有栖川 「団塊の世代」の下の私たちは「シラケ世代」ですよ。
呉 そうなんですけどね。僕はあの作品を書いたときに、自分たちは「そうじゃない世代」に属している、と思っている人たちを書きたかったんです。自分自身がそういう世代だと思っているんですよ。バブル世代の後だということもあるし、思春期の頃にあった二つの大きな事件――酒鬼薔薇事件とオウム真理教事件――と、自分の距離感が気になっていて、自分はそこにいなかったなあ、と思っているんですよね。藤原伊織の『テロリストのパラソル』をその頃に読んで、全共闘世代に歪んだ憧れが生じたこともあって、その下の世代と自分の世代とを重ねてみたくなったんです。
有栖川 わかる気もするけど、シラケ世代は全共闘世代に対するあこがれをいちばん持ってない世代です。言うたらあれですよ、サッカーワールドカップが終わった後ですよ。大きな祭りが終わった後。醒めた目でゴミが散らばるスタジアムを見ていました。
呉 『おれたちの歌をうたえ』では上の世代に対する幻滅も書いたつもりなんですよ。団塊の世代の下の世代に、ああいう主人公たちがいてもおかしくなかろうと思って書いたので。そういう意味ではいちばんチャレンジした作品ですね。
有栖川 学生運動の余熱、余波が下の世代に伝わっている部分もあるだろうから、あの主人公たちはそうだったと考えれば、もちろん小説としておかしくはない。でも、その世代は上の世代を自分たちから切り離したがり、シラケ世代と呼ばれた幻滅の世代にあたる。社会に対する幻滅から先に進み、別の何かを築けなかったことがこの世代の罪だと思うんですよ。自分たちの世代は何をしたのか。「あなたは何をしたの?」「あれ以来、時代に流されたりしながらずっとシラケてました」。それって罪ですよね。
それはともかく、別の世代に、四十歳の自分が思っていることを託すというのは大変なチャレンジだったと思いますよ。
2023.05.05(金)