のちの朝ドラに与えた影響

 逆に『あまちゃん』がのちの朝ドラに影響を与えたところも多分にあるだろう。たとえば、宮藤官九郎は放送中のインタビューで、《われながらうまいと思ったのは、ヒロインのアキと、お母さんの春子、おばあちゃんの夏という、3世代の女性の話にしたこと。それぞれを追いかけるだけでも、ストーリーが広がっていくんです》と語っていたが(『婦人公論』2013年5月22日号)、3代の女性の物語といえば、近年の朝ドラでも『カムカムエヴリバディ』(2021年度後期)が思い出される。ちなみに『カムカムエヴリバディ』の脚本を担当したのは、『ちりとてちん』と同じ藤本有紀だった。

『あまちゃん』では、東北の三陸地方を舞台にしただけに、放送の2年前に起きた東日本大震災をどのように描くかも注目された。ふたを開けてみれば、震災は物語の上でも大きな出来事ではあったものの、被害の惨状が直接的に描かれることはなく、町のジオラマ(劇中に登場する北三陸観光協会に置かれていた)が壊れた様子などでほのめかすにとどまった。

 震災後には、アキは帰郷して、ユイとともにご当地アイドルとしての活動を再開、被災地を応援する役割を担うことになる。最終回では、被災した北三陸鉄道(北鉄)の一部区間が復旧し、地元の人たちが熱っぽく一番列車を見送った。

 

 放送時には、北鉄のモデルとなった現実の三陸鉄道北リアス線は全線復旧工事の最中にあり、翌2014年に南リアス線に続き全線が再開通した。三陸鉄道のある社員は、震災10年にあたり、『あまちゃん』の放映は《復興を目指す私たちの大きな励みになった》と振り返っている(「たびよみ」2021年3月15日配信)。

「もし、震災後から『あまちゃん』を書き始めても…」

 ただ、東北の宮城出身の宮藤官九郎は、震災そのものを描くためのドラマではなかったと断言している。物語は震災前の2008年から始まるが、彼に言わせると《もし、震災後から『あまちゃん』を書き始めても、同じラストになっただろうなということです。同じように書いた、書けただろうと思う》というのだ(『AERA』2013年7月22日号)。これは最終回を前にしてのインタビューでの発言だが、続けて次のようにも語っている。

2023.04.21(金)
文=近藤正高