『あまちゃん』はこのほか、周到に張られた伏線を一つひとつ回収していく展開に加え、宮藤の作品ではおなじみの小ネタもふんだんに盛り込まれ、多くの視聴者をとりこにした。SNSや各メディアでは、熱狂的なファンが物語の考察や今後の展開の予想を繰り広げることになる。劇中に北三陸の方言として登場し、アキが驚いたときなどに口にした「じぇじぇじぇ」は、この年の新語・流行語大賞の大賞のひとつに選ばれた。
社会現象にまでなったが、視聴率は…
このように『あまちゃん』は大きな反響を呼び、社会現象にまでなった。だが、意外にも視聴率は直近の朝ドラと大きな違いはなかった。平均世帯視聴率(ビデオリサーチ社・関東地区)は20.6%と、前年度の前期放送の朝ドラ『梅ちゃん先生』の20.7%にわずかにおよばなかった。
メディアで『あまちゃん』を高く評価した人のなかには、初めて朝ドラを通して見たと明かすケースも目立った。そうしたことから、『あまちゃん』は朝ドラを見る習慣のなかった人をも取り込んだからこそ、ヒットしたのではないかという見方もあった。
ただ、これについても、NHK放送文化研究所による世論調査(『放送研究と調査』2014年3月号)では、『あまちゃん』を見たことのある人に、そのきっかけを質問したところ、「朝ドラをいつも見ているから」という人が一番多く、新聞・雑誌、あるいはインターネット上で話題になっていたからと答えた人は少なかった。
上述の世論調査ではまた、見たことがあると答えた人のうち、途中で見るのをやめたという人は4分の1ほどにとどまり、ほぼ最後まで見続けた人のほうが多数を占めた。これらのデータからは、『あまちゃん』がブームになったのは、それまで朝ドラを見ていなかった人を取り込んだからというよりは、むしろ習慣的に見ていた人たちをとらえて離さなかったからこそ、と考えたほうがよさそうである。
2023.04.21(金)
文=近藤正高