《それは地震が大きな問題じゃなかったという意味ではないですよ。あれほど大きなことが起こったけれど、それでも人間はたくましく生きる。笑ったり泣いたりしながら生きるしかない。そういう描き方をしたかった。そういう描き方しかなかったと思っています》

 被災状況のストレートな描写が避けられ、被災者の心の傷などが描かれることもなかったのには、震災からまだ2年しか経っていないという時期的な理由もあったはずだ。実際、朝ドラで、被災者の負った心の傷が描かれるには、震災10年に合わせて放送された『おかえりモネ』(2021年度前期)まで待たねばならなかった。

『あまちゃん』が放送されたのは、ツイッターをはじめSNSの利用者が飛躍的に増えていた時期である。ただ、SNSやブログなどインターネット上で『あまちゃん』について書き込みをした人は、前出の世論調査の結果によれば、見た人のうち1%にすぎなかった。それでも、放送期間の前後を含めて番組に言及したツイート数は650万件を超え、『梅ちゃん先生』の12倍以上もあったという(NHK放送文化研究所調べ)。閲覧のみのユーザーをも含め、視聴者がSNSを通じてドラマの楽しさや感動を共有する時代が本格的に到来したのが、まさにこのときであったと言っていいだろう。

 

同年に放送された『半沢直樹』との共通点

 ちょうどこの年の夏には、TBS系の「日曜劇場」で『半沢直樹』が放送され、最高視聴率が平成のドラマでは歴代トップを記録した。同作もSNSなどで盛んに話題になり、視聴率も『あまちゃん』がそうであったように、最終回に向かうにしたがい伸びていった。

 筆者は最近になって、『あまちゃん』と『半沢直樹』には大きな共通点があることにふと気がついた。それは、どちらも、主人公が親の落とし前をつける物語であったということだ。

『半沢直樹』で堺雅人演じる主人公の半沢は、父親が経営していた町工場の融資をめぐり、その銀行の担当者に約束を反故にされたのが原因で自殺したという過去から、復讐を期すべく、大学卒業後、くだんの銀行の後身であるメガバンクに入った。物語が進むにつれ、半沢に対し、父を死に追い込んだ張本人である大和田(香川照之)が宿敵となって立ちふさがるが、最後には土下座で謝罪させるにいたり、視聴者にカタルシスを与えた。

2023.04.21(金)
文=近藤正高