俳優・のんさんの最新主演映画『さかなのこ』は、『横道世之介』や『子供はわかってあげない』などで知られる沖田修一監督が、さかなクンの自伝的エッセイを原作に、さかなクンとは似て異なる“ミー坊”の半生を描いた。
のんさんはミー坊を、躍動感あふれるたたずまいと、くるくると変わる愛すべき表情で、しっかりと見せ切った。
ミー坊が魚に出会い海洋世界に魅了されていくように、大好きなことを見つけて夢中になれることの愛おしさと輝きで胸がいっぱいになる本作は、様々なことに夢中になり形をなしているのんさんの今にも通じるよう。
映画や表現への探求心や、幼い頃から受けた影響・そのルーツを、のんさんに前後篇でたっぷりとうかがった。
【前篇からつづく】映画『さかなのこ』主演・のん「私はヒーロー願望がすごく強い」
「作ること」が好きになったきっかけ
――インタビュー後篇では、今ののんさんを作った出来事についてお伺いしたく思います。前篇では、ロバート・ダウニー・Jr.や忌野清志郎さんらが好きというお話もありましたが、幼少期から振り返って今のご自身を作るルーツやきっかけなど、思い当たる記憶はありますか?
幼稚園児のときの記憶なんですけど、幼稚園で節分の日にみんなで鬼の絵を描こうとなったんですね。周りの子たちが赤鬼とか青鬼とか緑鬼とかカラフルな鬼を描いていて、それを見ながら自分は「格好いい鬼を描きたい!」と思ったから、黒い鬼を描いたんです。
大人になってから聞いたんですけど、お母さんがそのことを心配していたそうで……「この子は心の闇を持った子に育つんじゃないか⁉」みたいな(笑)。
――深層心理的に(笑)。
でも、私は「黒い鬼を描いてやった、格好いいぞ!」と、すごい誇りに満ちていて。そうしたら、子供の絵が飾られる展覧会に飾ってもらえたんですよ。家族みんなで黒い鬼を見に行ったりして、めちゃくちゃうれしくて。そのときに「私は絵が特別好きなんだ」という気持ちが芽生えました。それが今、作るのが好きになったきっかけだと思います。
もうひとつは、中学生のときのことです。当時は友達とバンドを組んで、コピーバンドをやっていたんですね。自分の中では一番の青春でした。練習して、みんなで合わせて、地域のイベントとかで披露したりもしました。本当にバンドが楽しかったし、みんなで何かをやるという面白さを見出したときでした。それも、すごく今に生きていると思います。
――だから、映画やモノづくりの現場が好きなんですね。
現場が面白いと思っています。全然違う脳みそを持った人たちが一丸となって、ひとつの画面に向かっていっているという、その熱さがすごく気持ちいいんです。幼少期の鬼の絵のこと、中学のときのバンド、そのふたつが私の中で色濃い気がします。
2022.09.01(木)
文=赤山恭子
撮影=深野未季