「のん」という役者を客観視している

――前篇冒頭では「のんという役者が」という表現もされていましたが、俳優としての自分を客観視しているところもありますか?

 朝ドラ(『あまちゃん』)でたくさんの人に観てもらえるようになってからは、そういう視点を持つようになりました。それまで自分は暗い人間だと思っていたのが、明るいパワーに魅力がある人間だったんだ、とそれで気づけたので。その体験が大きいですね。それまでは「こういう役が好きだからやりたい」という偏りもあったりしたと思うんですけど、それからは客観的にというか、思えるようになりました。

――自分に求められているものが、わかるようになってきた感じなんですか?

 そうですね。そういうことを考えないとダメだな、と思ったんです。

 例えば、Aという役をやっていて、Aのイメージを払拭するような全然違うキャラクターのBという役がきたとしますよね。Bをやったとして、そうやって180度(役を)変えたときに、うまくいく人とうまくいかない人がいると思っているんです。

 私の場合は、そのストライクゾーンがかなり(狭く)濃かったと思うんですよね。みんなが本当にAそのものだ、のんはAだと思っていた、というか。なので、そこから正反対のBという役……いうなら、色っぽい暗い人殺しみたいな役をやるのは、絶対によくないな、と思いました。そういう視点はすごく持っています。

――何でもかんでも自分のやりたい役を優先して選ぶわけではなく、求められているものや役の幅をすごく慎重に考えていらっしゃる。

 役の幅を広げるとき、自分の今のストライクゾーンはここだけど、どうやったら役の幅を広げていけるのか、ということをすごく考えました。役者だからいろいろな役もやりたいけど、観てくださる方がいてこそやっていける職業だから、そこを裏切るようなことはしたくない、という気持ちがすごくあります。演技を愛しているし、絶対にいいと思ってもらいたい気持ちがすごく強いので、そういうことばかりを今は考えていますね。

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のん

1993年7月13日生まれ、兵庫県出身。2016年にアニメ「この世界の片隅に」で主人公・すずの声を演じ、第38回ヨコハマ映画祭「審査員特別賞」を受賞。2017年に自ら代表を務める新レーベル『KAIWA(RE)CORD』を発足。2022年公開の主演映画『Ribbon』では自ら脚本・監督を務めた。

映画『さかなのこ』

9月1日(木)より TOHO シネマズ 日比谷 ほかにて全国ロードショー

のん 柳楽優弥 夏帆 磯村勇斗 岡山天音
西村瑞季 宇野祥平 前原 滉 鈴木 拓 島崎遥香 賀屋壮也(かが屋)
朝倉あき 長谷川 忍(シソンヌ) 豊原功補
さかなクン 三宅弘城 井川 遥

監督・脚本:沖田修一 脚本:前田司郎
原作:さかなクン「さかなクンの一魚一会 〜まいにち夢中な人生!~」(講談社刊)
音楽:パスカルズ 主題歌:CHAI「夢のはなし」(Sony Music Labels)
製作:『さかなのこ』製作委員会
制作・配給:東京テアトル
©2022「さかなのこ」製作委員会
http://sakananoko.jp/

2022.09.01(木)
文=赤山恭子
撮影=深野未季