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男性ディレクターは芸人さんたちと裸の付き合いができて羨ましく感じることも
――2018年には「THE MANZAI」「爆笑ヒットパレード」「ENGEIグランドスラム」というフジテレビの看板である演芸番組のチーフプロデューサーに就任されました。
はい。バラエティは大きくいうと音楽班と演芸班などに分かれていて、演芸班はなかなか女性が踏み込みにくいところだったと思います。芸人さんは圧倒的に男性が多いじゃないですか。そこで男性ディレクターは裸の付き合いができるんですよね。朝まで飲んだりしてるときの「こういう企画はどうかな」「いいね、やろう!」みたいな会話から生まれるものっていっぱいある。特に昔はそうだったから、「ワンナイR&R」のAPをやっていた頃、芸人さんたちと飲みに行ったあとで、男性ディレクターやADがサウナに行ったりしているのをすごくうらやましく感じてましたね。
――めちゃくちゃわかります……サウナまでいかないと本当に混ざれないですもんね。
そうそう、そこは絶対に付き合えないじゃないですか。「私はここまでしかいけないんだ」って思うことはありました。でも、その後に石井さんが立ち上げた「ココリコミラクルタイプ」でAPをやることになったとき、松下由樹さんや坂井真紀さんをはじめ女性の出演者の方がすごく多かったんですね。それでひとつグッと中に入れたのは、自分の歴史の中では大きな出来事だったと思います。「ミラクルタイプ」チームはいまだに集まるくらい今もすごく仲良しです。
その後もやっぱりお笑いが大好きでずっとやっていた中で、当時の部長が「女性でも芸人さんと向き合って番組ができるんだ」と演芸班のチーフに抜擢してくれて。それで事務所各社へ挨拶にうかがったときに、ワタナベエンターテインメントの渡辺ミキ社長やタイタンの太田光代社長が「女性が演芸班のチーフをやるんだ! 画期的ですごく良い!」と言ってくださったんです。それは本当に励みになりました。
――そういう反応だった理由はなんだったのでしょう。
推測ですが、歴代のチーフは男性でしたし、演芸は男の人がやるものというイメージがあったんだと思います。それと、ご自分たちもたくさんの芸人さんを抱える中でどこまで女性が入り込んでやっていくのか、考えていらした部分があったんじゃないでしょうか。
それからは、「男性じゃないからそこまではいけないな」と思っていたところを超えて踏み込むようになりました。本当はもともと男性と女性の違いなんて全然ないはずなんですけどね。芸人さんの悩みを聞いたりすることも増えましたし、ナインティナインさんをはじめ出演者のみなさんと距離がぐっと縮まりました。
――重い責任を負う立場になったことで「遠慮している場合じゃない」と思うようになった。
本人たちこそ背負っているものが大きいわけで、その人たちとしっかり向き合わないと番組ができあがらないんですよね。立場を持って「この人たちと一緒にやっていくんだ」という思いが芽生えたから、芸人さん側もなんでも相談してくれるようになったところはあるかもしれません。一蓮托生でやっていこう、と。「女性でもここまでできるんだ」というのを後輩や部下の女子が見ていてくれたらいいなと思います。
2023.04.21(金)
文=斎藤 岬
写真=平松市聖