この記事の連載
- ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい #1
- ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい #2
男性も女性もそれぞれに怯えながら生きている
――原作ももちろんそうですが、映画では、人が社会の中で直面する苦しさに、より強く光があたっている気がしました。原作を読みながら、段々とそうした社会の残酷さに気づいていったからでしょうか。
一緒に脚本を書いた兄の金子鈴幸から学ぶことも多かったです。基本的には、私が七森視点、兄が白城視点になって書くことが多かったんですが、七森が夜道を一人で歩くシーンでは逆に男性である兄の意見にハッとさせられました。
これまで私は女性ジェンダーとして夜道を一人で歩く怖さを知っていたけど、男性もまた、目の前を歩く人を怖がらせないよう道を変えたりしていることを知ったんです。映画の男性スタッフ陣もそのことに共感していました。すべての人がそれぞれ怯えながら生きている。一緒に執筆作業をしながら、日常生活にあるいろんな問題と向き合うようになりました。
――お兄さんとの共同作業というのもおもしろいですよね。一緒に脚本を書かれたのはこれが初めてですか?
初めてです。構成力がある人に脚本に入って欲しかったのと、自分の内省や閉まっていた傷つきに真正面から向き合わないとこの話は書けないなと思い、兄にお願いしました。家族としてこれまで生活してきた相手だったら、そのキャッチボールがやりやすいかなと思ったので。
――お兄さんの鈴幸さんは劇作家で、お父さんの金子修介さんは同じ映画監督をしていらっしゃいますよね。普段から、家族と映画のことはよく話されるんですか?
そうですね。これまで私がつくった映画はだいたい見てもらっていますし、普段から会うと映画の話しかしない、つまらない家族です(笑)。
2023.04.13(木)
文=月永理絵
写真=杉山秀樹