この記事の連載
- ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい #1
- ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい #2
「人」の映画を撮ることはすごく大変でした
――初めての原作ものですが、これまでのオリジナルの脚本と比べて特に苦労することはなかったのでしょうか?
それがものすごく苦労しました。映画化するために作品を紐解いていくうちに、この小説が持つ鋭さに改めて打ちのめされてしまって。ぬいぐるみというふわふわな存在があるからか、原作は一見やさしく見えるんですよね。でも読めば読むほど、これって完全に社会派の話で、人の内奥にあるものまで取り出さないといけない物語で、どう扱ったらいいんだろうと苦慮しました。
今までは、映画をつくるのは自分のなかにある詩を外に出すような感覚だったけど、今回はこの小説が持つ鋭さと向き合わないといけない。これを映画化することでまた傷つく人もいるかもしれない。とにかく考えることがたくさんありました。
これまでは、植物とか石とか、人間以外の「物」をテーマにすることが多かったんですよね。この映画も、最初はぬいぐるみという「物」の映画でもあると思っていたけど、ぬいぐるみって本来的に人の創造物だし、「物」というより「人」に近い存在なんですよね。このメインビジュアルも600体のぬいぐるみに囲まれている画ですけど、実はそこに込められた600人以上の魂がうごめいているすごい空間でもある。初めて「人」の映画を撮ることになったのですが、それはかなり大変な経験でした。
2023.04.13(木)
文=月永理絵
写真=杉山秀樹