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「芸」としてのパパタレ

 今日の「理想の父親」ランキングで上位の常連であるタレント─杉浦太陽、つるの剛士など─は、いわゆる「パパタレ」として認識されることも多い。そもそも「パパタレ」という単語が存在すること自体が、時代の変化を象徴しているとも考えられる。今日では、良い父親であることが、ひとつの「芸」として評価されうるのである。『FQ JAPAN』の「顔」が変化したのは、このような文化が日本社会に浸透したからだと言えないだろうか。

 『FQ JAPAN』が変わったのは、表紙だけではない。その内容もまた、時間が経つにつれて成熟していった。ひとつのわかりやすい変化は、雑誌の見出しから“Dad”という単語が徐々に減っていったことである。2007年には、“Dad”という言葉は一号につき平均して約8回使われていた。これが2,010年になると平均1回となり、逆に「イクメン」という言葉が約5回使われている。2016−17年冬のある記事では、「UK流イクメン」という言葉が使われている。「イクメン」という言葉が日本に根づくにつれて、“Dad”という言葉は不要になっていったのだ。

 「イクメン」が流行語大賞をとった2010年に『FQ JAPAN』は「イクメンの条件とは?」という特集を組んでいる。ここで興味深いのは、「『イクメン』という言葉が流行していますが、この現象をどのようにとらえていますか?」という問いに対して、複数の識者が批判的な観点から回答を寄せていることだ。

 「自分の余暇を楽しむ対象として、盆栽やペットを育てる感覚で子育てしているようにも感じられます」、「メディアが流行らせているだけではないでしょうか? 僕の回りでは誰も使っていませんし。育児は大変なものです。その割には、軽くて安易な響きの言葉だと感じています」といった意見は、「イクメン」という言葉だけではなく、下手したら『FQ JAPAN』という雑誌のコンセプト自体を批判するような可能性をはらんでいる。逆に言えば、それでも読者は離れないという確信を編集部は持っていたのだろうし、そのような自己批判の姿勢こそが「新しい父親」には必要であるという判断があったのかもしれない。

2023.04.17(月)
文=関口洋平