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「欧米」は本当に「進んで」いるのか

 「妻は仕事で、輝けるか!?」と題された2014年の特集では、子どもを持つ女性にとって働きにくい環境を改善するために父親たちは何をするべきかが論じられている。「育児休暇については夫婦で話し合い、自分は職場で初めて男性の育児休暇を取りました。1歳になる前の1カ月間と、短い期間でしたが、女性の大変さや、育児の重要性に気付かされた毎日でした」といった意見を読むと、育児がケア労働でもあることがよくわかる。初期の『FQ JAPAN』において育児のポジティブな側面ばかりが注目を集めていたことを考えると、ずいぶんと大きな違いが感じられないだろうか。「父親が楽しければよい」という独りよがりの姿勢は、ここには見られないのだ。

 イギリス版と日本版の『FQ』を比較したときに浮かび上がってくるのは、「ジェンダー先進国」と「後進国」という枠組みには必ずしも当てはまらない、複雑な文化受容のプロセスである。そもそも、イギリス版の『FQ』がジェンダーの観点から見て「進んでいる」わけでは決してなかった。初期の『FQ JAPAN』はそんなイギリス版の楽天的で独りよがりな姿勢を再現しつつ、「英米の父親は進んでいる」という幻想を日本の読者に提示した。ところが、『FQ JAPAN』は徐々に日本独自の路線を打ち出し、初期のイギリス版に見られたような無責任ともいえる父親像を批判したのである。

 したがって、こと『FQ』に関する限り、日本版はイギリス版に「追いついた」わけではない。日本版はイギリス版をある程度模倣しつつも、日本国内の(=ローカルな)課題に照準を合わせ、細かい微調整を繰り返しながら、より洗練された内容を読者に提供してきたのだ。

 「日本はジェンダー問題で遅れているから、欧米に追いつかなければいけない」─我々の社会の現状に鑑みると、そのような呼びかけには頷ける点も確かにある。けれども、そこでなんとなく「モデル」となる欧米の社会の現実は、より注意深く吟味される必要があるはずだ(そもそも、そのような言説のなかでしばしば用いられる「欧米」という言葉にも注意が必要である。たとえば、育児支援に関する限り、アメリカとスウェーデンの政策に共通点は少ない)。

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関口洋平(せきぐち・ようへい)

1980年生まれ。フェリス女学院大学文学部英語英米文学科助教。
東京大学大学院人文社会研究科にて修士号、ハワイ大学マノア校アメリカ研究科にて博士号を取得。東京都立大学人文社会学部英語圏文化論教室助教を経て現職。2018年、アメリカ学会斎藤眞賞受賞。専門はアメリカ研究。特に、アメリカ文化における家族の表象について研究している。本書が初の単著となる。

次の話を読むホームレスのイクメンは努力でアメリカンドリームをつかんだが…『幸せのちから』にない“母親のケア”

2023.04.17(月)
文=関口洋平