一方で、職場で新人時代に受けたパワハラエピソードや、ペアリングまで買っていた同性の友人に彼氏ができて暴発した話とかはかなり書きづらかったです。「自分にも落ち度や正しくない部分もあったんじゃないか」「っていうか明らかにあったときもある」という話なので。だって、職場のハラスメントの話すら、「いや、お前が仕事できなかっただけでは?」と言われたら「まあそうなんですよね……」と認める余地がある。でもそこにはちゃんと、構造上の正しくなさもあって、それを書く必要は見えてるんです。自分の中の「いや、お前が悪いのでは?」への恐怖を乗り越えるのにかなり時間がかかりました。

 おそらくそうした潜在的な防御反応から書かずにいたことがたくさんあったんですが、連載の終盤で、大学院ももうすぐ終わるという2022年の夏に33歳の誕生日を迎えたんですね。そこで「誕生日おめでとう! せっかくだから厳しいこと言うけど、文章でいい顔するのやめたら?」と諭してきた友人がいて(笑)。それがあってウェブ連載の最終回に、新人時代の職場で起きた加害と被害のことを書くことに踏み切り、本の書き下ろしでも、母親との関係ですとか、ずっと書けないと思っていたことを書けました。

友情でトライもエラーも許されない

佐野 トライアンドエラーの過程が書かれている本だなと思うんです。世の中では、恋愛のトライアンドエラーは許されるけど、友人関係におけるトライもエラーも、あまり許されない感じがします。すごく乱暴な言い方をすると、恋愛での失敗談は笑い話にできても、特に同性の友人とのトラブルを打ち明けると、たとえば「そこの距離、見誤っちゃうんだ」とヤバい人みたいな感じになっちゃうというか。一対一の人間という意味でいうと、性別がどうであろうと、友情であろうと恋愛であろうと、あまり変わらないことのはずなのに……。ドラマでも友情の決裂が起こるのは恋愛が絡んだときが多いですし、そういう形でしか破綻が描かれない。

2023.03.28(火)
文=ひらりさ、佐野亜裕美
撮影=平松市聖/文藝春秋