ひらりさ いまは2018年頃と比べると、視聴者がもっと“SNSになっている”というか、すごいスピードで反応が届きますよね。ドラマのリアルタイム視聴だけでなく見逃し配信もすぐ始まって、ソーシャルメディアの速度はより速く、良くも悪くも反響が集まりやすい時代になっている。制作側がどこまで気にして、どこから気にしないかという線引きが相当難しいのかなと思います。
佐野 そうなんですよね。どのドラマでも、最終回が終わった後に「がっかりしました」「期待していたのに」という感想が届くことはあります。あるセリフにものすごく引っかかる人がいたり。でも受け取り方は人それぞれな訳で、届く人には届くし、放送したらドラマは視聴者のもの。そういうつもりでやっていかないと、もたないです。人間というのは多分に不可解なもので、善悪で人を分けることはできないし、この世に本当に正しいことなんて、たぶんない。ハラスメントをするような人にうっかり救われちゃうことだってある。じゃあその上でどうしていくか、みんなで議論していこうというのが『エルピス』チームの共通理解でした。
反応がほしいし、反応ありきだった
ひらりさ 私はデジタルネイティブで、中学は個人サイト、高校の頃はmixi、大学時代にTwitterを始めて、もうインターネットにずっとアイデンティティがあるんです。書き手としてのキャリアもウェブメディア発ですし、PV文化のなかで培ってきました。そうすると、基本的には反応がほしいし、反応ありきです。するとどうなるかというと、自分の意見を言語化する時点で、メタな自分がいるというか、周りの反応ありきになるんですよね。
『それでも女をやっていく』は2020年からウェブで始めた連載を元にしているのですが、フェミニズムや女性を取り巻く社会問題を書いていても、序盤は「いい子」というか、自分がやられた悪いことのほうが書きやすかった。読んだ人も「それはよくないよね」って言いやすいじゃないですか。だから、大学で受けた同級生男性からの暴言エピソードとかは、私のなかでは書きやすいことでした。
2023.03.28(火)
文=ひらりさ、佐野亜裕美
撮影=平松市聖/文藝春秋