目が全然見えないということはなく、2メートルくらいまでは普通に見える。でも、その先がぼんやりしています。たとえが難しいのですが、ド近眼という感じでしょうか。結局、いつも通っている道だから大丈夫だろうということで、そろり、そろりと緊張しながらなんとか運転して帰りました。
無事に家に着いた時点で私はかなり疲れていましたが、足は動いたので出かけることにしました。青山で仕事の打ち合わせがあったからです。
自宅近くの駅までは問題なかったのですが、渋谷駅で降りた途端に、人がいっぱいいて、混乱した私は何も見えなくなって途方に暮れました。
パントマイムで「壁」の演技をする人のように手を前に出して、柱にさわって自分のいる場所を確かめながら、よたよたと歩きました。打ち合わせをなんとか終え、ひとりでお店に入り、鰯定食もしっかりと食べたのですが、やっぱり遠くの方はぼやけてよく見えません。
午後に気功の先生のところに行って「目が変なんです」と訴えても、「何だろうねえ、私には普通に見えるけど」と言われてしまいました。
ところが夕方、家に帰って洗面所の鏡を見た途端に「ああっ!」と声が出ました。右目が寄り目になっている! 黒目が見えないほどのひどい寄り目です。なんということでしょう。とても悲しくなりました。
すぐに大学病院へ、MRIを撮ることに…
ちょうど小学校5年生の長男コウスケ(仮名)が学校から帰ってきたので、一緒に近所の眼科に行きました。途中、薬局で眼帯を買ったのは、寄り目の自分を知り合いに見られるのがイヤだったからです。
眼科の先生はまず、「どうして眼帯をしてるの?」と私に尋ねました。「先生、こんなことになってしまったんです」と私が眼帯を外すと、先生はどこかに電話をかけて「フレッシュな患者さんがいるんです」と言いました。
「そうか、私はフレッシュなのか」と、くすぐったい気持ちになりましたが、先生の顔は真剣でした。
2023.03.13(月)
文=清水ちなみ