そのため、結局最後は呼吸困難に陥り緊急搬送されました。最初に生死の境をさまよったのは、あの時。2000年、53歳でした」
——緊急搬送される4日前に、神戸文化ホールで「愛と夢 永遠のタカラジェンヌ」に出演されています。
「憶えてない……」
——しかも、翌日には神戸のホテルで公演記念のトークショーにまでお出になっている。
「えっ、そうなの? 私って、本当にバカじゃないの?」
診断は「難病のSLE」
——入院後の経緯を綴った主治医の記録が残されています。
「ICUに入ったのですが、意識を失ったので1週間くらいの記憶がありません。後で知った病名は『全身性エリテマトーデス(SLE)』。膠原病の一種で、なかでもとくに難治性の病です。膠原病は、免疫機能に異常が起きて全身にトラブルが起きる病気で、浮腫みや冷えの原因はこれ。20キロの増量は、腎臓が機能せず全身に尿などの水分がたまった結果でした。水が、肺や心臓を包む膜にまでたまり、溺れているのと等しい状態だったわけです。
主治医の記録には、『両足から水がしみ出てきそう』『胸部、腹部を指で押すとボコンとへこむ』『薬を早急に大量投与の必要』などと記されていて、友人が、本気で葬儀の心配をするほど緊迫した状況が何日間も続いたらしいです。入院時の体重が58.1キロ、約20キロの水を抜いた後は39.3キロ。意識を回復したら、自分が骨と皮だけでまるで人体の標本みたいになっていた」
——人体標本って……。
「だって、そんな感じ(笑)。少しよくなってから杖をついて歩き始めたら転びましてね。水を抜いて皮膚がだぶだぶになっていたので、足の皮がずるりとむけた。その時に入った砂がまだ膝に残っています。
本当にもっと早く病院で検査を受けるべきだったんですけどね。心の奥底で、母の死を思い出して怖かったのかもしれません。母も同じ症状でしたから。あの時代は医学が今ほど進んでいなかったので、母は病名不明のまま大変苦しんで亡くなったんです。
2023.02.15(水)
文=安奈 淳