「『ザセツ』って、諦めるってことですよね。僕がですか。人生で…ですか? (しばらく考えて)…ないです。なんかあったかなぁ!? あははは! 話になんないですね!」。

(引用:「『メディアに出られないことすら、ありがたかった』w-inds.橘慶太が “逆境”を歓迎する理由」2021/3/24)

 諦めない。素晴らしいが言うのは簡単、やるのは困難。私は、それを実践する彼を「すごい」と思うと同時に「怖い」とも思った。私のような、10のラッキーがあっても1つの失敗で落ち込み、諦めモードになる者にとって、もはや異星人である。

 

橘慶太と松浦亜弥に驚かされる理由

 しかしそのポジティブ思考によって、彼は自分で楽曲制作から配信まですべて自分でできる技術を身に着けた。そうしてこの名曲「Addicted」が生まれたのだから、怖がってはいられない。きっと周りの雑音に心を取られず「どうすればいい方に行くか学ぶ」ことがしっかりできる人なのだろう。w-inds.のメインボーカルとしても、今でも約20年前のハイトーンな楽曲を原曲キーで歌え、しかも包容力をプラスしている歌唱力も諦めなかった証だろう(彼もすごいが、同じくメンバーの千葉涼平の声もいまだ素晴らしい!)。

 そして、前述した通り、「Addicted」は吹き込んでから6年も経って発信している。6年前の作業など、下手すれば日々の生活で埋もれてしまいがちだが、大切な宝のように届けてくれた。私は橘慶太と松浦亜弥に驚いてばかりである。そして、なんとも「鮮やか」だと思う。

 現代、人生は気が遠くなるほど長くなった。アイドルももはや年齢より輝きが基準だ。10年、20年以上の空白期間から、再び嬉しい歌声を聞かせてくれる人も増え、もはやセカンドステージどころか、サードステージも待てる。ふっと休むのももちろんありだ。

 そして、今回のあややのように、「うわ懐かしい!」という以上に、流れた時間の充実さを感じさせるような、心地よい「音」を連れてきてくれることがあれば、本当に嬉しい。

 そう思えるほど、演じ過ぎずただただ音に乗り、心の奥のわだかまりを溶かしてくれるような歌声だった。

2023.01.28(土)
文=田中 稲